東京都農林水産技術会議水産試験研究評価部会報告
 平成13年度第1回東京都農林水産技術会議水産試験研究評価部会が、平成13年7月3日に開催され、平成14年度から新たに開始する4研究テーマに対する評価が行われました。

〔研究評価部会委員〕
部会長 竹内俊郎 東京水産大学資源育成学科 教授
      桜本和美 東京水産大学資源管理学科 助教授
      松里寿彦 独立行政法人水産総合研究センター研究推進部長
      仲村正二郎 東京都漁業協同組合連合会専務理事
      大谷幸雄 東京都内水面漁業協同組合連合会代表理事会長
      三田豊一 東京都内湾漁業対策委員会会長
      酒泉幹雄 都民委員
      鈴木たね子 都民委員
1 評価対象研究
 今回、評価の対象となった研究は、平成14年度から新たに開始する研究テーマ4件です。なお、行政からの委託調査や国・他県研究機関等との共同調査は、対象から除外しています。
研究テーマ 研究部所
東京湾奥における水質浄化に資するアサリ増殖研究
養魚用水の再利用技術開発試験
差木地漁港における貝類養殖の試み
天然フクトコブシ資源増大研究
資源管理部
奥多摩分場
大島分場
八丈分場
2 研究テーマごとの評価結果
[研究テーマ] 東京湾奥における水質浄化に資するアサリ増殖研究
[研究期間]  平成14年度〜平成18年度
[研究の目的] 水質浄化機能を持っているアサリの増殖手法を明らかにすることによって、潮干狩りなどのできる都民に親しめる海辺を作りだし、同時に水質浄化に寄与する。
[研究内容]
1.底質、水深、水質などアサリの最適生息環境と生息量の関係を解明。
  調査地点:お台場、羽田洲、羽田浅場、三枚洲
2.水槽実験により塩分、DO(溶存酸素量)などアサリへの耐性を解明。
3.東京湾奥でのアサリの成長や産卵期を解明。
4.アサリ種苗を放流し放流効果を追跡調査。
5.アサリの食品としての安全性(大腸菌量等)を検査。

[評価] 
・東京内湾のアサリは、漁業資源として非常に重要であると同時に、都民にとっても潮干狩りとして重要な資源である。また、東京内湾は都民の貴重な水辺空間として今や観光スポットとなっている。
・アサリの増殖技術の確立(増殖の見通し)と行政による増殖場の造成、アサリ資源の増大とアサリの水質浄化作用など、漁業資源および自然とのふれあいなど都民生活の質的向上に資する研究であり、東京都が取り組むべき課題として評価する。
・取り組みに当たっては、港区の学校と生物調査を行うなど教育効果の視点の取り組みを考慮したい。
・5年程度で結論が得られるとは考えられず難度の高い研究である。一応、5年間という区切りのなかで、残る課題は今後の検討課題として、見通しが得られるように的を絞った重点的な取り組みの工夫を行う必要がある。

[評価に対する水産試験場の対応]
・本研究は港区と協働して行うので、教育的視点の取り組みについても港区と協議していく。
・当面、調査地点をお台場にしぼり、アサリ増殖の可能性を把握する。具体的な研究計画については再度検討し、一定の見通しが得られるよう研究を進める。
[研究テーマ] 養魚用水の再利用技術開発試験
[研究期間] 平成14年度〜平成17年度
[研究の目的] 東京都のマス類養殖は、山間部の主要な地場産業として、また、遊魚を含めた多摩地域の観光産業を支える重要な役割を担っています。しかし、近年では環境保全の高まりから、養魚排水による河川水への汚濁負荷軽減が必要になってきました。また、河川水量の減少という実態も養殖経営の圧迫や河川汚濁に影響を与えています。これまで、「環境調和型養魚技術改良試験」によって、養魚排水中の糞などの処理・堆肥化など、いろい再利用によってマス類養殖を行うことができるかどうかその可能性を検討します。
[研究内容]
1.循環システム開発
  糞の除去を目的とする物理的処理と水に溶け込んだ汚濁物質の除去を目的とする生物的処理を組み合わせ、民間養魚場の池の形状に適した用水の循環利用システムを検討。
2.取水浄化技術開発
 養殖場における飼育用水の全量または一部を循環利用する場合、飼育用水の質的劣化や魚病発症時において、一時的に循環利用を停止し新水を河川から取り入れる必要があります。その際の河川水の濁りや病原菌等を除去するための技術を検討。

[評価]
・河川への養魚汚濁負荷の問題は全国的に関心が高まっている。都内養殖業者による研究会が数年前より取り組んでいることは称賛に値し、都の研究機関としてもマニュアル的技術を開発し指導することが本来の責務であり取り組む必要性の高い課題である。
・本研究計画は、これまでの研究成果をベースにして、河川への汚濁負荷軽減を図るほか、渇水期における養魚用水の確保を見込んでいることで有意義であり、実用性が期待される。
・従来、養魚用水の使用は原則としてコストが不要であったが、本研究ではコストがかかる。普及の段階で経済性の影響を充分考慮した技術の開発を念頭に実施する必要がある。
・養魚排水の汚濁負荷軽減策の一つとして、糞の少ない飼料開発・改良による水質浄化研究も検討すべきと考える。

[評価に対する水産試験場の対応]
・養魚用水のリサイクル技術の開発については、コスト面に充分配慮しながら研究会等とも連携し研究を進めていく。
・飼料開発等による水質浄化研究は重要であると考える。この取り組みには過去に実施したような国や他県・民間の研究機関との共同研究による開発が早道であり今後検討していく。
[研究テーマ] 差木地漁港における貝類養殖の試み
[研究期間] 平成14年度〜平成17年度
[研究の目的] 伊豆諸島では、東京都栽培漁業センターで生産した貝類種苗を、一般漁場に放流し栽培漁業の展開を図っています。今回は、現在休止漁港となっている差木地漁港へ貝類種苗を放流し、放流後の成長や生残を調査して、今後の栽培漁業への有効活用について検討します。
[研究内容]
1.供試貝は成長のよいトコブシ種苗とする。
2.波浪の程度や影響、潮汐による海水交換の状況、水温・塩分、溶存酸素量等の年変動、餌料海藻の消長等漁場環境の把握
3.放流後の移動、食害、死亡状況など生残と成長状況調査
4.生育基盤としてのシェルター投入による生産量向上の検討

[評価]
・静穏域の少ない島しょにあっては、今後の新しい磯根資源の増殖技術開発研究として積極的に位置づけるべきである。
・研究結果は、伊豆諸島における他の漁港施設や消波堤の内側などの活用への展開が大いに見込まれ、また、観光産業との結びつきが期待されることから非常に意義ある重要な研究で、都が早急に取り組む必要がある課題として高く評価する。
・放流して商品サイズになる2年間を1研究サイクルとして計画していることは妥当である。
・研究当初からシェルターの投入による研究の推進を検討する必要がある。また、本研究も教育的効果を加味することを考慮されたい。
・本漁港は休止漁港であることから、一般漁港区域内での新たな貝類増養殖方策を開発するための試験地、ナーサリーグランドとしての活用を図っていくことが重要である。

[評価に対する水産試験場の対応]
・初年度からのシェルターの投入を行う方向で大島町や港湾局との積極的な連携を図り、1研究サイクル(2年間)で成果が得られるよう進めていきたい。
・教育的効果については、これまでも他の研究において実施しており、今後も積極的な取り組みを進める。
・一般漁港区域内を貝類等の増養殖の場としての活用については、今後の技術開発を進めるなかで、関係機関とも十分連携し検討していきたい。
[研究テーマ] 天然フクトコブシ資源増大研究
[研究期間] 平成14年度〜平成18年度
[研究の目的] トコブシの漁獲量は激減していて、漁業者からは以前のように多獲できる資源に復活することが強く望まれています。これまでの研究成果と併せ、資源減少要因を種々検討し、資源回復の展開に向け必要な繁殖助長方策を明らかにする。
[研究内容]
1.産卵から着底、漁獲までの間に必要な生息場の条件を把握し、発育期に対応した増殖策のポイントを見いだす。
2.発育期別に外敵生物や競合種との種間関係を調べ、減耗対策の可否を検討する。また、餌料海藻を特定する。
3.自然状態で再生産に必要な母貝密度を把握し、幼生の加入量増加につなげる
4.既存漁場の改善策や生息場に必要な転石の条件など明らかにするための実証試験を行う。

[評価]
・資源の減少が著しく早急な資源の回復が望まれていることから、重要な緊急課題であり、都が取り組むべき研究である。
・本研究は、餌料生物、外敵生物、栄養塩類など磯根環境と生態系を対象としなければならず、結論を得るには非常に難しく長期間を要するテーマであることから、全体計画をしっかりたて、1期、2期と将来に向けて地道に問題を克服していくことが必要である。
・現在、各漁協が放流している貝類種苗の放流効果向上を図る施策への反映も期待される。

[評価に対する水産試験場の対応]
・その年の取り組みにおける達成目標を明確にし、その目標が達成できるよう絞り込んだ取り組みを進める。
・単なるデータ収集・蓄積に終わることのないように、全体計画をチェックし、手法、研究目標を見定めながら取り組んでゆく。
・行政施策の推進に資する成果が得られているかどうか、途中経過を取りまとめ、検討を加えながら進めていく。

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