東京都農林水産技術会議
水産試験研究評価部会報告
 平成14年度第1回東京都農林水産技術会議水産試験研究評価部会が、平成14年7月8日に開催され、平成15年度から新たに開始する5研究テーマに対する評価が行われました。

〔研究評価部会委員〕
部会長 竹内俊郎 東京水産大学資源育成学科 教授
      桜本和美 東京水産大学資源管理学科 助教授
      酒井保次 独立行政法人水産総合研究センター研究推進部長
      仲村正二郎 東京都漁業協同組合連合会専務理事
      大谷幸雄 東京都内水面漁業協同組合連合会代表理事会長
      三田豊一 東京都内湾漁業対策委員会会長
      酒泉幹雄 都民委員
      鈴木たね子 都民委員                   計8名
1 評価対象研究
 今回、評価の対象となった研究は、下記の表に示した研究テーマ5課題です。
研究テーマ 研究部所
(1)eビジネスによる島しょ水産物販売手法の開発
(2)アユのナーサリーグランド調査
(3)トビウオ類の魚肉特性を利用した加工技術の開発
(4)伊豆大島におけるサザエ資源回復に向けた研究
(5)小笠原におけるカツオ漁業の導入試験
資源管理部
資源管理部
資源管理部
大島分場
小笠原水産セ
2 研究テーマごとの評価結果
[研究テーマ](1)eビジネスによる島しょ水産物販売手法の開発
[研究期間]平成15年4月1日〜平成17年3月31日(3年間)
[研究の目的]インターネットを使用して島しょ水産物の消費拡大をねらい、全国へのPRを図るとともに、流通コストを最小に抑えて末端の消費者が伊豆諸島の水産物を手軽に安価で購入できるシステムを開発する。
[評  価]インターネットを利用した今日的な取り組みとして高く評価できる。最近このような試みが多く、特色を出すように心がけてほしい(安全性・安心・新鮮・信頼・価格、製品の加工、輸送方法など)。消費者とのトラブルが多いことから、漁連を核にすることは賢明であり、手法開発の指導と監督は十分に行ってほしい。本手法の開発が成功すれば、費用対効果は大変優れたものとなる。
[評価に対する対応]先行している他の商品分野では、消費者とのトラブル事例も多いことから、研究内容については再検討したい。
[研究テーマ](2)アユのナーサリーグランド調査
[研究期間]平成15年4月1日〜平成17年3月31日(3年間)
[研究の目的]本研究では、アユの生残率に大きな影響を与える東京都内湾域のナーサリーグランドの特性を明らかにする。研究結果に基づいてナーサリーグランドの保全・回復案を作成し、行政施策への提言を行う。
[評  価]本研究の推進は、東京湾再生を目に見える形で表現できる点でわかりやすい有意義な研究である。ナーサリーの保全・確保による天然アユの遡上が増加すれば江戸前アユの復活となり、多くの都民を含めた釣り人に福音をもたらし、その費用対効果はきわめて大きいと判断する。ただし、経費が十分とはいえないので、他の調査と抱き合わせにより効率よく実施してほしい。
[評価に対する対応]研究経費の面では、既存のデータや他県、他研究機関の資料も活用しながら効率的に進める。

[研究テーマ](3)トビウオ類の魚肉特性を利用した加工技術の開発
[研究期間]平成15年4月1日〜平成18年3月31日まで(3年間)
[研究の目的]島しょ海域で回復してきたハマトビウオ資源や資源的に余裕のある夏トビウオ類を有効に活用するために、クサヤ以外にも新たな加工技術の開発に取り組み、販路と消費の拡大を図る。
[評  価]水産行政にありがちな、単に資源を増やせばよいと言う固定観念をうち破り、一歩踏み込んだ点に価値があるとともに、新たな決意と意欲を感じる。新しい製品開発や販売網の整備などにより新たな特産品となる可能性があり、その場合には費用対効果は大きい。ただし、試験研究と新製品の開発、販売は異なる視点が必要となるので十分に注意すること。水産試験場には加工部門がないことから、栄養成分分析、鮮度、加工特性などについては、東京都食品技術センターと連携を密にするとともに、東京水産大学、女子栄養大学、(独)水産総合研究センター中央水産研究所などの協力を得るようにすると良い。
[評価に対する対応]水産加工研究については、これまで研究経験のない分野であり、食品技術センターや大学など他研究機関と十分連携しながら進める。

[研究テーマ](4)伊豆大島におけるサザエ資源回復に向けた研究
[研究期間]平成15年4月1日〜平成20年3月31日(5年間)
[研究の目的]伊豆諸島におけるサザエの主産地である大島では、平成13年には水揚げ量が前年の半分にまで落ち込んだ。減少要因については、海況変動や餌料環境の変化も考えられるが、小型貝の乱獲を指摘する声もある。そこで、各漁協が設定している栽培漁場の実態調査を踏まえて管理目標値を設定し、小型貝の保護による資源回復の効果を実証することにより、科学的根拠に基づいたサザエ資源管理の啓発を行う。
[評  価]伊豆大島におけるサザエの漁獲金額は最も大きいことから、資源量回復に向けた取り組みは有意義であり、漁業者への助成や費用対効果からみても妥当である。ただし、都としてはこれまでに、サザエの産卵期と産卵サイズを解明し、漁獲規制の時間とサイズの根拠をすでに提示しているところであり、今回はその個別地域における検証の研究といえる。管理方法を漁協へ提示したり、漁協自身に管理、資源性状を調査させ、漁業者に目に見える形で示し、納得してもらう時にきている。データの積み重ねと資源管理の啓発活動が重要。
[評価に対する対応]現在、実施中の磯根資源動向調査によりモニタリングを行ってデータを示しながら、サザエ資源管理の普及啓発に努める。

[研究テーマ](5)小笠原におけるカツオ漁業の導入試験
[研究期間]平成15年4月1日〜平成19年3月31日(4年間)
[研究の目的]小笠原周辺で地元漁船により漁獲された漁獲物は、現在週1回の船便で内地に出荷されるため、鮮度低下の速いカツオは出荷しても値がつかない。しかし、平成17年に就航が予定されている超高速定期船を活用すれば2,3月に「初ガツオ」として出荷できる。そこで、小笠原周辺のカツオの漁場形成状況などを調査し、カツオ曳き縄漁業を小笠原の新たな漁業として育成する。
[評  価]超高速船就航を念頭に置いた新規事業であり、小笠原の新たな漁業資源の利用を図る上できわめて価値ある研究といえる。特に、初ガツオにターゲットを絞った点に価値がある。本研究の遂行により、伊豆諸島のカツオ来遊予測としての利用可能性が高い。さらに、新たな観光客の増加が望めることから島内での消費も期待できる。
[評価に対する対応]消費者ニーズに対応する流通対策にも取り組むとともに漁獲データは伊豆諸島海域へのカツオ来遊予測として活用を検討する。

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