三宅島噴火災害漁場調査結果13
調査日:  平成14年7月30〜31日
                30日:阿古カマニワ〜モハナの西(主に島西部)
                31日:ジョウネ〜坪田(主に島東部)
調査場所:  図1に示す11地点
         (1)定点(マークした岩)の周辺で継続調査する地点(4地点)
           ウノクソ・カタンザキ・オオハシ・アラキ
         (2)定点は設置せず、継続調査する地点(3地点)
           阿古カマニワ・ユノハマ・ミノワ
         (3)トコブシ放流貝追跡調査地点(1地点)
           ジョウネ
         (4)漁協から調査依頼のあった地点(3地点)
           アゲハマ・モハナの西・坪田
調査員:東京都水産試験場大島分場  安藤 和人・杉野 隆・滝尾 健二・
                          駒沢 一朗・向山・常比古
使用船舶:  三宅島漁協「住吉丸」 関 恒美
調査項目:  (1)海中の火山灰、砂、礫、石の堆積状況
         (2)テングサ等海藻着生状況
         (3)トコブシ・イセエビ等動物の生息状況
         (4)その他特徴的事項
調査方法  SUCUBA潜水による目視視察、写真撮影。定点・継続調査地点では海藻の1u枠取り、トコブシ4u枠取り。    
調査結果
7月30日(火)
1)阿古カマニワ
 ・透明度15mと良かった。
 ・転石上にテングサが生えているが、5月の調査時と比べ、ヌマ・石灰藻がついている物が多く、藻長が短かった。また多くは枯れ始めていた。(写真1・2)

 ・テングサ1u枠取り調査は、水深5.3mで行った。(写真3)
 ・海底には反転した石や岩が広範囲で確認された。海藻類が付着せず、表面がツルツルした転石やは白化している底側がむき出しになった転石が多く見られた。また、トコブシ4u枠取り調査の結果、合計22個体を採捕し、うち放流トコブシは6個体みられた。前回の5月の調査時と比べ、採集総数は34個体から22個体と少なくなった。
  反転した石が多く見られた一因として、阿古カマニワは南西側に開いており、台風による波浪の影響を受けやすいため、と思われた。調査前の7月は、台風が連続したため、影響を強く受けたのではないかと考えられた。
 ・トサカノリはほとんどみられなかった。
 ・魚類では、ツムブリ(全長40cm前後、15尾前後)の群れがみられた。
写真1
写真2
写真3
2)ユノハマ
 ・透明度は10m程度。
 ・水深3〜5mではところどころ砂地がみられ、岩礁と丸石(40〜100cm)の転石帯が広範囲にみられた。(写真4)。
砂地部では各所から気泡が発生しているのが確認でき、温泉が沸いているものと思われた。(写真番号5)。また部分的に透明度が悪い場所があった。
 ・泥や砂が減少している場所では、主に礫が転石の合間に入り込んでいた。
 ・適当な転石を反転すると、温泉でみられる鉄色の湯垢状のものがはがれてきた。
   また、海底の一部が黄色(硫黄色)に変化したところがみられた(写真6)
 ・テングサ1u枠取り調査は、水深5.3mで行った。
 ・海藻類は、水深6〜7mではハネサイミが優占し、まばらにテングサがみられた。テングサは石灰藻付きのものが多くみられ、藻長は短く、枯れ始めていた。
 ・魚類はニザダイの大群を確認した他、メジナがみられた。他の調査地点と比べ、魚種が少ないことがユノハマの特徴である。
写真4
写真5
写真6
3)ウノクソ
 ・透明度は良く、15m程であった。定点ブイは2ヵ所とも発見できた。土砂の堆積は約1年前と比較して、確実に減少してきている(写真7,8)。
 ・テングサ1u枠取り調査は水深5.7mで行った。なお、調査地点周辺にまんべんなく分布していた。
 ・今回も泥が付着している岩が多く見られた。(写真9)。
 ・転石は埋没しているものが多く、トコブシ4u枠取り調査の結果、6個体の天然貝を採捕した。

 ・魚類はテンス・カミナリベラ・スズメダイ類がみられた。
写真7
写真8
写真9
4)カタンザキ
 ・透明度が良く、15m程度であった。
 ・テングサ1u枠取り調査は、水深2.8mで行った(写真10)。前回同様、今回もテングサの表面には石灰藻がついている物が多かった(写真11)。
 ・シワヤハズの多くは枯れていた。トサカノリは台風の影響か、5月の調査時に非常に多数みられたものがほとんどなくなっていた。
 ・水深2.6mで実施したトコブシ4u枠取り調査の結果、天然貝6個体を採捕した。転石は少なかったが、適当な転石を反転すると、トコブシが1、2個体程度、岩についていた。
 ・魚類は、ニシキベラ・オトメベラ・スズメダイ類・ハマフエフキ・カゴカキダイがみられた。
写真10
写真11
5)アゲハマ
 ・透明度は15m程度であった。
 ・火山灰や土砂などの影響はほとんどなかったと思われる。海底には堆積物などがみられず、手頃な転石(直径30〜50cm程度)が散在していた。
 ・カニノテ・テングサが優占してみられ、半々程度の割合であった。(写真12)
 ・テングサの多くは枯れ始め、色が抜けていた。また表面に石灰藻がついているものが多かった。
 ・水深6mで行ったトコブシ4枠取り調査の結果、74個体の天然貝を再捕した。今回、最もトコブシが豊富な漁場であった。放流適地ではあるが、すでに高密度でトコブシが生息しているため、今年度予定しているトコブシ種苗の放流にあたっては、放流数を控えめにするか、もしくは種苗放流前にトコブシを漁獲して密度を下げてから放流した方が良いと思われる。
 ・岩盤上にある適当な岩を反転させると、4-7cm程度のトコブシが1-6個体岩についていた(写真13)。
 ・直径1〜3m程度の岩が多く、重なり合っているため、隙間が多くみられ、イセエビの所々みられた。
 ・魚類は、ニザダイ・メジナ・イスズミ・ヨメヒメジ・ブダイ・ヘラヤガラ・イシガキダイ等がみられた。
写真12
写真13
6)モハナの西
 ・透明度は20m程度と良かった。
 ・カニノテが優占し、他に、ハネサイミが優占してみられた。アゲハマに比べ、テングサは少なく、散見される程度であった。
 ・水深6m前後では大岩が多く、また岩の重なりに隙間が多く、トコブシが好む適当な大きさの岩がなかった(写真14)。種苗放流には不適と思われる。
 ・浅場(水深3.8m)では手頃な大きさの岩があるものの、下部は砂に埋没し、トコブシはみられなかった。大岩の岩間にはイセエビが散見された。
 ・大岩の岩間にトコブシが蝟集している場所が1ヵ所あった。
 ・魚類は、ヨメヒメジ・ニザダイ・チョウチョウウオがみられた。
写真14
7月31日(水)
7)ジョウネ

 ・ 透明度は15mと良かった。
 ・全体的に石や岩の表面上に泥の堆積がみられる(写真15)。岩間には小砂利(直径0.5〜1.0cm程度)が多くみられた。
 ・ハネサイミが優占し、大きな群落を形成していた(写真16)。
 ・テングサは枯れ始めているものが多く、色が抜け始めていた。また石灰藻付きのもの多く(写真17)、全体的に藻長は5〜10cm程度と短かった。
 ・水深6.0mで行ったトコブシ4u枠取り調査の結果、37個体を採捕し、うち放流トコブシは19個体を占めた(写真18)。昨年放流した個体も多く含まれていた。ジョウネは北側に向き、湾状に窪んでいるため、台風の影響(南西風)や冬の西風の影響を受けにくい地形になっている。・手頃な石を反転すると、トコブシが1〜4個体/石程度みられた。
 ・魚類はベラ類・スズメダイ類・ヨメヒメジ・ハマフエフキ・ツバメウオがみられた。
写真15
写真16
写真17
写真18
8)ミノワ
 ・ 海底は、前回5月と同様な状況であった。水深5m以深は一面砂地で覆われており、砂地になっていた(写真19)。水深5m以浅で水深転石が現れるが合間は砂で埋没していた。前回5月の調査時と比較して、植物片などの縣濁物や堆積量は半分以下に減少していた。
 ・多くの岩表面はカニノテやキントキ・ハネサイミに覆われていた。
 ・テングサ1u枠取り調査は、水深4.0mで実施した(写真番号20)。テングサの多くは藻長が短かく、石灰藻付きが散見された。
 ・水深5mの砂地と転石帯との際では、砂地から海藻(ハネサイミ)が直接生えているところがあり(写真番号21)、砂の流入・移動が頻繁 に起きているものと思われる。
 ・トコブシが生息可能な岩がほとんどないため、トコブシ種苗放流には不適と思われる。他に小型のクボガイ類のみが見られた。トコブシ4u枠取り調査の結果、天然貝1個体のみ採捕した。
 ・ハネサイミ・カニノテ優占。所々にテングサが生えていた。
 ・魚類は、タカベ(当歳魚)の群れがみられた(写真番号22)。他にシマアジ・ヒメジ類・カマス類・イスズミがみられた。
写真19
写真20
写真21
写真22
9)オオハシ
 ・透明度は10m程度であった。定点ブイは発見できなかった。
 ・多くの岩は白化しており、転石の隙間は砂で埋没していた。台風によると思われる反転した石が多くみられた(写真23)。
 ・テングサ枠取り調査は大岩の頂部、水深6.3mで行った(写真24)。藻長は非常に短かった。
 ・海藻類はほとんど生えていなかった。僅かに藻長の短い(藻長約1〜3cm)ハネサイミが生えている程度。一部の大岩側面にはアントクメの小株が散見された(写真番号25)。
 ・水深8.8mで実施したトコブシ4u枠取り調査の結果、天然貝4個体採捕した(写真26)。他にクボガイ類が多数みられた。餌となる海藻が少なく、生息場所となる転石がほとんどないため、トコブシ種苗放流場所としては不適と思われる。
写真23
写真24
写真25
写真26
10)アラキ
 ・今回、陸上において一番火山ガスがきつい(濃度が高い)場所であった。山裾から地面を這うように海へ向かって青白いガスの帯が確認できた。
 ・透明度は10m以下と今回の調査では一番悪かった。透明度の最も悪いところで、5m程度であった。海藻の生息状況から土砂の堆積変動は少なかったと思われる。
 ・テングサは岩上にあちこちでみられ(写真番号27)、藻長こそみじかいものの、表面に付着物等は無く、状態は良かった。アントクメが散見されたが葉の部分は概ね欠損し、付着部も貧弱なものが多かった。他にシワヤハズもみられた。
 ・水深7.5mで実施したトコブシ4u枠取り調査の結果、36個体を採捕したが、放流貝はなかった。板石1枚あたり平均5?10個体程度、トコブシが付いているのを確認できた。今後、陸上からの泥流等の流入が砂防ダム等で解決されれば、種苗放流の効果が期待できる磯と思われる。
 ・天然トコブシは稚貝から成貝まで多数見られた(写真番号28)。特に20mm〜40mmの小型貝が多かった。これらは1才か2才貝と思われる。
 ・岩間にはイセエビが散見できた(写真番号29)。
写真27
写真28
写真29
11)坪田(ヨツネリ)
 ・透明度は15m以下であった。
 ・陸上からの土砂や泥流の影響はほとんど無い場所であった。 
 ・板石が散在していたが、調査時、既に反転しているもがほとんどであった(写真30)。他の天然石が反転していない状況からすると、台風あるいは人為的(選択的)に行われた可能性が考えられた。そのためか、成貝のトコブシは非常に少なく、小型のトコブシが多数採集できた。
 ・海藻類は、藻長の長い(20cm程度)ヘラヤハズが広く優占していた(写真31)。カニノテが 散見され、テングサは多少みられるものの、非常に少なかった。
 ・水深6.2mで実施したトコブシ4u枠取り調査の結果、12個体を採捕した(写真32)。小型のものが多く、9個体が殻長40mm以下で、放流貝(殻長60.2mm)は1個体であった。枠外において適当な石を反転して採捕したトコブシは計85個体で、放流貝(殻長57.1〜79.3mm)は7個体であった。枠外でも殻長40mm以下の個体が53個体(62.3%)を占めた。 
 ・トコブシ放流貝は大型のものしかみられず、昨年放流した放流貝は見られなかった。場所がずれていたか、生残数が非常に少ないと思われた。
 ・魚類はハマフエフキがみられた。
写真30
写真31
写真32
4. 考 察
 今回調査結果の特徴は、下記の通りである。
 @テングサの多くは枯れ始めており、また表面に石灰藻類が付着しているのが目立った。全体的に、この時期にしては藻長が短かった。
 A阿古カマニワ・坪田(ヨツリネ周辺)では、転石が反転しているのが目立った。先の台風9号によるものと思われた。
 B北西部の「アゲハマ」では、トコブシが高密度に生息していることがわかった。

 C「ジョウネ」では、昨年放流したトコブシ種苗が平均して40-50mm程度に成長しているのが確認できた。
 D噴火災害の影響を受けた磯のうち、今回調査した中では「ユノハマ」「オオハシ」「ミノワ」など、生物・海藻ともに回復の遅い磯と、「アラキ」のように生物・海藻ともに回復の兆しがある磯の差がでてきている。
 今回の調査では、前の週に降雨がほとんど無かったこともあり、海中の透明度は概ね良好であった。海藻類は一部枯れ始めているものがあり、枯れ始めるには若干早いのではないかと思われた。テングサは全体に少なく、藻長が短く、また表面に石灰藻が付いているものが多くみられた。トサカノリは時期的に、また前週の台風によりちぎれたためか、5月と比べ非常に少なかった。アントクメの多くは非常に小さくなっており、付着部と若干の葉を残すものが目立った。 トコブシ4u枠取り調査の結果、「アゲハマ」では計74個体採集できた。これは調査開始以来、最多である。枠外の場所でも多数生息が確認でき、非常に高密度に生息していた。

5. 要 約
 1. 調査日  平成14年7月30・31日
 2. 調査地点 三宅島周辺11地点(図1)
 3. 調査結果
   1)泥流の流れ込んだ地点の状況(アラキ・オオハシ・カタンザキ) 
  アラキでは5月の調査時と比べ、海藻類の繁茂状況が良かった。これは5月以降、陸上からの泥流・土砂があまりなかったためではないか、と推定された。5月にみられた転石上の細かい泥も減少していた。 
  オオハシでは5月の調査時と比べ、転石が多く、土砂の堆積量は減少していた。

  カタンザキでは岩や転石上に粒子の細かい泥や砂はみられなかった。また    海底に堆積している土砂等は5月と比べ、特に変化はなかった。
   2)崖崩れのあった地点の状況(ユノハマ・ウノクソ)
  ユノハマでは5月の調査時と比べ、石の下部が白化した転石や丸石が多くみられた。転石上の泥はほとんどみられない程減少していた。海底の土砂は粒径の大きい砂礫に変化し、細かい砂はポンプ小屋側へ移動しており、荒涼とした海藻のない砂地帯が広がり、所々埋没した転石がみられた。また一部海底が硫黄色になっているところもみられた。
  ウノクソでは5月の調査時と比べると、岩や転石上に堆積している泥が減少しているものの、引き続き転石上に泥の堆積がみられた。海底は砂礫が多く、白化している転石が目に付くため、土砂は減少傾向にあると思われる。
   3)浮泥の堆積
  ユノハマ・ウノクソで顕著にみられた。
   4)テングサの生育状況
  全体的に藻長が短く、枯れ始めており、色も抜け始めているものが目に付いた。また表面に石灰藻が付着しているものが多くみられた。アラキでは5月の調査時、テングサ1u枠取り調査の結果、テングサが123gであったが、今回調査地点中、最も多い372gであった。目視観察でも海底にまんべんなく生えているのが確認できた。   5)トサカノリの生育状況
  5月の調査時には、トサカノリが繁茂しているのが目に付いたが、今調査では非常に少なかった。また確認できたものは藻長が短かった。
   6)トコブシの生育状況
  今回調査地点中、アゲハマではトコブシ4u枠取り調査の結果、74個体を採捕した。これは、平成12年の調査開始以来、最多である。
  ジョウネでは4u枠取り調査の結果、計37個体が採捕された。うち放流貝が19個体含まれていた。枠外でも13個体の放流貝を採捕し、放流貝32個体を測定した結果、平均殻長で約2倍(21.9mm→46.6mm)に成長していた。
   7)イセエビ アゲハマ、モハナの西、アラキで確認できた。その他の地点では確認できなかった。


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