式根島地震災害調査1
水産試験場大島分場
目 的
 平成12年6月以降の一連の地震により式根島でも多くの場所で海岸の崩落があったが、当初の海上からの海岸調査では陸上部での土砂の堆積量が少なかったことなどから軽微な被害に止まったと判断された。しかし、地震の終息に伴って操業を再開した潜水漁業者から落石などによる漁場の埋没被害が著しいとの報告があり、また式根島漁協より調査要請があったので今回は潜水調査によってこれを確認した。
方 法
調査年月日:平成12年11月15日
調査地点:式根島南西側一帯を海上から観察し、典型的な崩落ヶ所である御釜湾湾央部西側と湾口部の鯛房岩直下で潜水調査を行った。
調査方法:船外機船で至近距離から海岸の崩落地点を確認し、スキューバ潜水によって崩落地点の海中の様子を観察して写真およびビデオ撮影を行った。
調査員:水産試験場大島分場、工藤真弘(潜水、取りまとめ)、杉野 隆(潜水、撮影)
調査協力:式根島漁協、早川氏

図1.調査地点(x:潜水調査地点)
結 果
(1)海上からの崩落ヶ所の確認
 被害は島の南西側の地鉈からカンビキ浦にかけて著しく、特に御釜湾の湾奥部から西側にかけて(写真1、2)とショートク浦一帯(写真3〜5)、およびカンビキ浦の西側(写真6)で多くの崩落ヶ所が確認された。
 式根島の南西側一帯は切り立った崖となっており御釜湾やショートク浦の崩落ヶ所の多くは崖の頂部が崩れて土砂や岩石が直接海中に落ち込んだ様子であるが、崖の棚の部分に滞留している場所や海岸に土砂が堆積している場所も認められた。

写真1.御釜湾西側

写真2.御釜湾湾奥

写真3.ヒラカンダチ(ショートク浦)

写真4.ショートク地元(ショートク浦)

写真5.ゴンガンボー(ショートク浦)

写真6.カンビキ浦
(2)潜水調査
1.御釜湾湾央部西側
 崖下に洞穴があり、直下の水深は5m前後(写真8)、湾奥部に向かって水深8〜9mぐらいまで岩礁となっている。岩礁上に大小の岩石が乗っており、水深10m前後から砂地が広がって、岩の頂部が露出する地形である。
 崖の頂部に大きな崩落の形跡があり、落石は崖下の洞穴の入り口から、水深8〜9mくらいまでの岩礁の基部(写真9)や窪み(写真10)に堆積している。落石の大きさは30cm前後から1m程度のものが多かったが、長径2〜3mくらいの岩も確認された(写真11)。
 また、水深9m前後では岩の隙間に砂礫の堆積も認められそのまま砂地に繋がっていた。
 海藻は浅所の一部にハリガネ群落が見られ、トサカノリの枯れ残った藻体が点在する他はハイオウギや有節石灰藻に覆われた貧弱な藻類相であった。また、落石の表面にはすでに付着藻類が繁茂しているが、付近一帯の岩礁の表面には浮泥が薄く積もっていた(写真12)。
 岩の隙間にサザエが数個体散見されたが、アワビ、イセエビは確認できなかった。

写真7.御釜湾西側潜水調査地点

写真8.崖下の落石(水深5m)

写真9.岩礁の基部が落石で埋没

写真10.岩礁の溝に落石が堆積

写真11.一面に落石が広がる(水深7,8m)

写真12.岩礁の表面には浮泥が薄く堆積

写真13.落石に挟まった木の枝
2.御釜湾湾口部西側、鯛房岩直下
 崖の下から水深20mくらいの海底まで急勾配で落ち込んでいる。崖の直下に水深5m前後の窪みがあり、ここに少量の落石が見られたが(写真15)、落石の多くはやや傾斜が緩やかになる水深15〜17mの場所に堆積していた(写真16、17)。陸上では鯛房岩の頂部にわずかに崩落の形跡が認められるにすぎないが、海中にはその形跡から想像される以上の大量の落石が確認された。藻類相は湾央部西側とほぼ同様であったが岩の上の浮泥はほとんど見られなかった。また、イセエビ、サザエ等の有用生物は認められなかった。

写真14.鯛房岩の潜水調査地点

写真15.崖下の落石

写真16.傾斜が緩やかとなる水深17mの落石と砂礫

写真17.海底付近に堆積した落石と砂礫(水深23m)
考 察
 式根島の南西側は大小の入り江と離れ根によって複雑な海岸線を構成しており、急峻な崖となっている場所が多い。今回潜水した2ヶ所の崩落ヶ所でも崖の頂部が直接海中に落下したようであり、陸上に土石の滞留場所がないためか、海上から観察した陸上部の外見以上に海中の落石量が多い印象を受けた。
 また、漁業者からの聞き取りによると崖下の波打ち際には随所に洞穴があり、この洞穴がイセエビの脱皮場所になっており、その周囲がイセエビ刺網漁やアワビ漁の好漁場となっているとのことであったが、今回の崩落によって洞穴の入り口など崖下の好漁場の多くが落下した岩石や土砂によって埋没した模様である。落石はいずれも大型(50〜150cm程度)で角が尖っており、また材木が挟まっているところもあるなど、網の引っ掛かりや擦り切れなどによりイセエビ漁の操業にも支障をきたす可能性がある。今回の調査潜水地点では海中での砂礫の堆積量は比較的少なく、濁りも認められなかったが、浅所では岩の表面に浮泥が積もっており、来年以降のテングサやトサカノリなどの繁茂状況が懸念される。更に、陸上に土砂が堆積している場所では降雨や波浪により今後も土砂の流入が継続することが予想される。

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