川の魚たちは今

13.地震予知のホープ(?)……ナマズ

1993年(平成5年)9月3日
 巨大なオタマジャクシのような体に大きな口、長くて立派なヒゲを生やしたナマズはちょっと変わった格好の魚です。大きなものでは六十センチにも達し、幼魚ではヒゲが六本もあるのに、成長すると四本に減ってしまうという面白い性質をもっています。
 ナマズは夜行性で、昼間は物陰に隠れていますが、夜になると出てきて小魚やエビなどを捕らえて食べます。
 私が子供の頃は、冬になって川の水が枯れると「かいぼり」でよくナマズを捕まえたものです。ナマズのいそうな「穴」の周辺にスコップで土手を築き、中の水をバケツですっかりかい出してやると、大きなナマズがヌルッと出てきます。ちょっとグロテスクな姿にハッとさせられますが、子供の顔が喜びに輝く一瞬でもあります。
 このナマズ、見た目と違って、肉は自身で味はなかなかのものです。川魚料理店では、ウナギよりさっぱりした味の蒲焼きに人気があります。アメリカではチャネル・キャットフィッシュという体重二十キロにもなるナマズの仲間がいて、その養殖が盛んです。こちらはフライなどに料理され、やはり人気のある魚です。マーク・トウェインの『トムソーヤの冒険』で、トムとハックがミシシッピ川で釣って食べるナマズはこのキャットフィッシュです。
 東京のナマズは、数は減ったものの、まだ大抵の川で見ることができ、比較的水の汚れに強い魚であることがわかります。しかし、ナマズの近縁で、同じく夜行性のギバチの方は、水質汚濁や河川改修などで大幅に減少し、現在は多摩地域のごく一部でしか姿を見ることができません。
 さて、ナマズといえば地震を連想される方も多いでしょう。 「地震がおきるのは地下の大ナマズが暴れるからだ」というのはもちろん迷信ですが、大地震の前に川のナマズが異常な行動をとったという言い伝えは各地に残っています。先ほど述べたように、ナマズは昼間はほとんど見ることができません。ところが関東大震災の前にはたくさんのナマズが昼間から姿を現したのを見たという人がいます。
 科学的な方面では、戦前に東北大学の畑井新喜司博士が地震とナマズの行動には関係があるという研究結果を発表されています。また、最近では東京大学の浅野昌充博士の研究により、ナマズの微妙な電流を感じる能力は人間などの百万倍も敏感であることがわかりました。
 わが水産試験場でも、昭和五十二年から十五年間にわたり水槽でナマズを飼育し、その異常行動と地震の関係について研究が続けられました。この間の膨大なデータは現在とりまとめられつつありますが、この研究によれば、ナマズが地震の前に異常な行動を起こす確率は五割以上にのほる可能性があるといいます。ナマズの鋭敏な感覚が、他の動物には察知できない微妙な地震の前兆現象を捕らえている可能性は決して否定できません。
 地震予知については、地下水位、ラドン濃度などいくつかの方法が研究されていますが、これまでのところナマズほど予知率の高い事例はまだありません。残念ながら、この研究は平成三年に終了してしまいましたが、つい先日、北海道南西沖地震のすさまじさを目のあたりにした我々としては「ナマズと地震」研究の進展と実用化を願わずにはいられません。

ナマズとギバチ写真

ナマズ(上)と激減してしまったギバチ(下)

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