川の魚たちは今

8.川の大衆魚……オイカワ

1993年(平成5年)7月30日
 前回ご紹介したウグイ(ハヤ)を釣っていると、よく一緒にハリにかかってくるのがオイカワです。東京付近の地方名はヤマベで、ウグイと同じような釣り方をするので、釣りの本では「清流のハヤ・ヤマベ釣り」と、よく一緒に取り上げられています。
ウグイは水質汚濁の進行とともに川の中・下流域で数を減らしましたが、オイカワは逆に増えた魚といえそうです。
 オイカワは、大きなものでも体長十七センチくらいで、雑食性の魚です。ですから、小麦粉を練った植物性のエサでも、あるいは川虫のような動物性のエサでも釣れます。
 「あんま釣り」は最も道具だての簡単な釣りで、そこらで切ってきた二メートルほどの竹竿の先に糸とハリを結ぶだけ。ウキもオモリもつけません。浅頼に立ち込み、川底の石をひっくり返してとった川虫をエサにします。そうして、竿先を水中に入れ、流れと平行に上下させながら釣り歩きます。
 魚がかかると、竿を引いた時にプルプルという小気味のよい手ごたえがあり、獲物はオイカワ・ウグイはもちろんのこと、ときにはアユがかかって大喜びをすることがあります。以前は夏になると、たくさんの子供たちが川に入ってこの釣りをしていましたが、最近あまり見かけないのは寂しいことです。貧弱な道具にもかかわらず、この釣りでは百尾以上釣ることも珍しくありません。立派な釣竿を持った大人たちを尻目に、得意満面だった子供の頃を思い出します。
 いま魚類図鑑を開いてオイカワの項を調べてみましょう。すると、そこには三種類の名前がのっています。オイカワというのは「標準和名」で、日本語の標準語に相当するものです。図鑑などで使われる正式名はこれが用いられます。
 次に出てくるのが「学名」です。学名はラテン語で書かれ、これは国際共通名です。私たちも外国人と魚の話をする時にはこの学名を使います。ちなみにオイカワの学名はZacco platypus(ザッコ プラティプス)といいます。
 最後は「地方名」で、これは方言に相当するものです。オイカワにはたくさんの地方名があり、東京二十三区内ではヤマベが一般的ですが、多摩地域ではバカッパヤ、オコゼ、ガンガラなどと呼んでいます。また、関西地方ではハエと呼ばれ、人気のある釣魚です。
 東京付近のオイカワの産卵期は六〜八月で、ウグイと同じように川の浅瀬の砂利に卵を産みつけます。この頃になると、成熱した雄魚は青緑やオレンジの極彩色にいろどられます。このような産卵期に現れる色彩を「婚姻色」といいますが、雌にはあまり目立った変化はありません。このようにオイカワでは、クジャクと同様、雄が雌よりも目立つ「性的二形」を示すことがわかります。
 近年、川のオイカワが増えているのは全国的な現象で、これには河川改修や水質汚濁が関係しているのではないかといわれています。
 河川改修が進むと河道は直線化し、この結果、河川の屈曲部にあった深くて大きな淵が姿を消します。そして川は一様に浅瀬の多い構造となってしまいます。このような川はオイカワがすむのに適しています。また、汚れた川に繁茂する藻類をエサにして、オイカワは「川の大衆魚」の地位を確保しているのです。

オイカワのオス・メス写真

オイカワのオス(上)とメス(下)

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