川の魚たちは今

9.山芋が化けた魚……ウナギ

1993年(平成5年)8月6日
 土用の丑の日といえば、もちろんウナギの蒲焼きです。ご多聞にもれず川のウナギも全国的に減ってしまいました。現在、私たちが食べているウナギはそのほとんどが養殖ものです。それも最近では、国産に混じって台湾産がかなり幅をきかせています。
 養殖といっても、ウナギはまだ人工ふ化技術が確立されていません。ですから、海から川に上って来る体長五センチほどの天然稚魚を河口で捕らえ、これを養殖池の中へ入れて育ててやるのです。この稚魚を養殖業者はシラスウナギと呼んでいます。
 日本ウナギの産卵場は長い間、謎に包まれていましたが、粘り強い調査が続けられた結果、最近になってマリアナ諸島の西側海域あたりということがわかってきました。
 卵からふ化した仔魚は葉形幼生(レプトケファルス)といわれ、薄っぺらい木の葉のような形をしています。この仔魚は海面を漂いながら、西へ流れる北赤道海流によってフィリピン近海まで運ばれます。
 さらにここから、北上する黒潮に乗って日本近海にたどり着くというのです。もちろん一部は黒潮の分流である対馬海流に乗って日本海側にも運ばれていきます。
 日本近海に達した葉形幼生は半透明なウナギの稚魚に姿を変え、群れをなしてグングンと川を遡ります。梅雨時など、水気さえあれば畑の上でも這っていくほどで、まさに「ウナギ登り」です。
 こうして川や沼に入ったウナギはエビや小魚などを食べ、五〜十数年を過ごすといわれています。また、ウナギは夜行性で、昼間は川岸の石垣の穴などに隠れていますが、日が暮れると出てきてエサをあさります。
 現在も江戸川で天然ウナギ漁を続けている漁師さんの話によれば、毎年秋になると川を下るウナギがとれるそうです。川のウナギは黒っぽいのが相場ですが、この下りウナギは体が銀色を帯び、一メートル近い大物も獲れます。味は、余分な指肪が落ちて、なかなか美味しいということです。
 こうした銀色のウナギは産卵のために海へ下るもので、まず東京湾に入り、さらに生まれ故郷のマリアナまで長い旅に出発するのです。
 一年を通じて川の魚をとっていると、どの魚にも卵の大きくなる時期というのがあります。すなわちこの時期が産卵期なわけです。しかし、ウナギはどの時期に捕まえても卵の大きくなったものがいません。昔の人は、まさかウナギが海へ下って産卵するとは思いませんから「ウナギは卵を産まない」、従って「あれは山芋が化けたのだ」という話をつくり上げたのでしょう。
 確かにウナギも山芋も、ともにヌルッとしたイメージが共通しています。ヌルっで思い出しましたが、一般の方と魚の話をしていると、「ウナギにはウロコがないんでしょう」とよく聞かれることがあります。しかし、ウナギには細長い楕円形の立派なウロコがあります。ただそれが体表の粘膜(ヌル)の下に隠れているので目立たないだけなのです。
 東京でも川のウナギはめっきり減ってしまい、現在、多摩川では稚魚の放流によって辛うじて魚影が保たれています。ウナギの減った原因はいろいろ考えられますが、例えば、河川改修によって川岸がコンクリートで固められてしまうと、ウナギの隠れ家が失われてしまいます。
 今後は「ウナギの寝床」に配慮した水辺づくりなども、河川管理の重要な課題として取り上げられていくことでしょう。

ウナギの葉型幼生図・ウナギ写真

体長約5aのウナギの葉形幼生(上)と山芋が化けた(?)ウナギ(下)

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