東京魚チング写真

紅い「快藻」テングサのヒミツ

 つくづく植物は偉いと思う。光と炭酸ガスと水、無機質から光合成(こうごうせい)でひたすら有機物を生産し、おまけに酸素を作りだす。動物はこれらの酸素や有機物を消費する一方である。この世に植物がいないと人間も含めて動物は生きられない。海のなかの植物も陸上植物と同じ役割を果たす。微細な植物プランクトンからコンブ等の大型海藻にいたるまで、必死に光を捉えて光合成を行い、酸素を放出する。テングサはどうだろう。海の底でフサフサ、ユラユラと紅い葉をなびかせている。葉が紅いからといって、秋のカエデのように紅葉しているわけではない。テングサが紅い秘密は葉の細胞中にあるフィコエリスリンという色素である。紅葉カエデも葉の中にアントシアンと呼ばれる色素ができるが、しかし、あとは落葉するだけである。一方、フィコエリスリンはテングサの葉で一生懸命、光合成を手伝う。テングサが住む深さの海では陸上や海面近くのように、太陽がさんさんという訳にはいかない。光のうち青や緑の短波長の光しか到達しないし光量も少ない。こんな環境でも光合成ができるのはこの色素のお蔭である。さて、ご存じトコロテンを食べる風習は古く奈良・平安の頃からすでに盛んであった。このトコロテンが凍結・融解後、乾燥したら寒天となることが偶然に発見されたのは江戸時代半ばであった。冷水には溶けないが水と共に沸騰させれば溶ける寒天質の秘密はアガロ−スという天然多糖類で人間は消化できず、カロリ−がゼロなのでダイエット食品としてもて囃されている。また、分解できる細菌が極めて少ないため細菌検査の培地に使われる。最近では、バイオテクノロジ−研究で組織培養の培地として新たな用途が開けてきた。ところで、海に住む植物「海そう」には「海藻」と「海草」があるのをご存じか。「海草」は根・茎・葉が分化し、花が咲き実もなり種もできるが、「海藻」は根・茎・葉がハッキリしないし、花も咲かない。テングサは漢字で書けば天草だから「海草」とお考えになる方もいるかもしれぬが、れっきとした「海藻」である。根が無い海藻は海草のように根から養分を吸収できないが、代わりに葉全体から効率的に吸収できる。花も実もないが、トコロテンや寒天と姿形を変えて我々の健康と美容に奉仕して生活を快適にしてくれる。ならば,いっそのこと「快藻、テングサ」でもよいかもしれぬ。mu
浜辺での天草干し写真
写真・浜辺での天草干し

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