東京魚チング

アリストテレスの提灯(ちょうちん)

 棘(とげ)だらけのウニは英語で、Sea Urchin(海のハリネズミ)と呼ばれ、その生殖巣は古くから「海の珍味」として世界中で食されてきました。日本では佐渡、欧州ではポンペイの遺跡から殻が発掘されています。八丈島では「ガゼ」と呼ばれ、12科30種が確認されています。一口に、ウニといっても、磯でよく見かける半球体に多数の棘を生やした「いが栗」型の他に、砂や泥の中に浅く潜って生活する「クッキー型」のカシパン類、深く潜る「タヌキ型」のブンブク類がいます。八丈島の「いが栗」型ウニ類は、波の当たる岩につくジンガサウニを始めとして、潮間帯の岩のくぼみにムラサキウニ、ナガウニ、アカウニ、潮溜まりにはシラヒゲウニ、そして海中には刺されると「チョー痛い」要注意のガンガゼがいます。ウニのように、棘が皮膚(かわ)を覆う構造の生物を棘皮(きょくひ)動物といい、ウニの他にもヒトデ・ナマコ・ウミユリがこれに属します。これらの生物は基本的には、体軸が5本で骨片(こっぺん)があり、体の中にある水管系の配列、海中で生活していることが共通の特徴です。ウニの半球体の皮膚は固い骨板でギッシリ被われ、大小無数の棘が生えていますが、良く観察すると、棘の間にはゴムチューブの様な管足(かんそく)が見えます。これは体内の水管系からの水圧調節で伸縮が自在で、先端に吸盤を持ち、ウニにとっては足や手の役割を果たしています。ところで、ウニの口は体の下方に、排泄口は上方に位置します。つまり、陸上の生物とは天地が逆になっています。でも、岩の窪みや陰に住むウニが岩に付いた藻や流れてくる藻を食べるためには、この方が都合が良く、海中では排泄口の位置が「ニュートンの原理」に逆らっても、排泄物は海水が流してくれるのでノープロブレム。さて、ウニの殻の中は、ほとんどが消化管と生殖巣で占められ、食い気(個体維持)と色気(種族維持)であふれています。旺盛な食い気は強力な5枚歯のランタン(ちょうちん)型の咀嚼器(そしゃくき)に支えられていますが、この器官の正式名称を日本語では「アリストテレスの提灯」といいます。「動物学の祖」といわれる、ギリシャの哲学者アリストテレス(紀元前382〜322年)は地中海のレスボス島で海産動物の研究中に、これを発見して命名しました。今度の浜遊びでは、棘に注意してウニの殻を割ったら、食べるだけでなく、アリストテレスになったつもりで提灯のような口も是非観察してください。   mu

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