東京魚チング

ハタはハタでもアカハタ

 「白地に赤く」は日本国のハタ(旗)だが、魚のアカハタは赤地に白い斑点がいくつかある。スズキ目( もく) ハタ科に属し、伊豆・小笠原海域ではおなじみの魚で地方名はアカバともいう。十数メ−トル前後の浅い海底の岩やサンゴの間から左右の眼百八十度ずつ、合わせて三百六十度が見える文字通り魚眼レンズで上目づかいで辺りを警戒している。同じハタでもクエやマハタのように体長が1mにもなると威圧感があるが、アカハタは大きくても三十cm程度で、ひょうきんな顔つきだから、なんだか親近感がわく。縄張り意識があって警戒心が強いくせに、リ−フ周辺での「泳ぎ釣り」でマスク越しに岩の間を出入りするアカハタ目がけて、糸、針、錘の単純な仕掛けで誰でも釣れる。本人(魚)は周りに気配りしているつもりなのに、餌に騙され、いとも簡単に釣られてしまうのがいかにもアカハタらしい。肉は白身で上品な味だから漁獲されれば引っ張りだこである。このため、最近は伊豆・小笠原諸島どこでも資源が減っている。回遊魚と異なり、ハタのように生息場所を移動しない魚を水産生物学では「定着性の強い魚種」と言い、放流効果も見えやすい。九州や中国・四国地方ではハタ類の種苗生産や放流試験が盛んになってきた。そこで、東京都水産試験場でも十数年前に小笠原水産センタ−でアカハタの人工採卵に成功以来、稚魚の量産を目指し、ふ化仔魚(しぎょ)の育成研究に努力してきた。アカハタの仔魚はマダイやシマアジに比べると体も小さく、喉も細い。最近ようやく餌の小型動物プランクトンの培養・確保にも目処がついたので、稚魚の量産も夢ではなく、アカハタ稚魚を放流できる日もそう遠くない。ところで、この魚を知らない方にアカハタと言えば、大体が著名政党機関紙と間違えてトンチンカンな会話となる。アカハタに格別な思想信条はないから、ちとハタ迷惑かもしれない。 mu
アカハタ餌実験写真
写真・アカハタ餌実験

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