東京魚チング

タイという名にあやかりタイ

 齢( よわい ) 重なると、お正月が慶事かどうか迷うのは筆者だけではあるまいが、こんな際には、尾頭(おかしら)付きのタイで祝うのが伝統的な日本の食習慣だから、すでにマダイを準備された方もいるかもしれぬ。そこで、今回はマダイの食卓魚類学を深めよう。一昔前まで、マダイは庶民の手に届かぬ価格であった。最近は天然物に加えて養殖物と輸入物が増えたため年々、価格も下がっている。統計では、国内生産量は1994年で9 万1 千トン、これに輸入物が2 割加わるので、日本人は年間でおよそ11万トンのマダイを食べることになり、これは10年前に比べれば約 2倍である。輸入物の空を飛ぶ青い目のタイは、欧州からアフリカまでの大西洋沿岸のヨ−ロッパマダイと豪州、ニュ−ジ−ランドのゴウシュウマダイが日本産マダイに分類学的に近縁で姿・形はそっくりで味も良い。特に、ゴウシュウマダイは産卵期が日本産と同じく春だが、南半球だから、日本のタイが産卵を終わって味が落ちる季節に旬が始まるので重宝がられている。さて、我が国のマダイの分布はと言えば、太平洋、日本海の北海道南岸から鹿児島まで広い。また、古く縄文や弥生時代の遺跡や貝塚から骨や歯が多く出土することから、太古の昔から各地で食されていたようである。都管内、伊豆諸島では南へ行くほどマダイは少なく、八丈島以南には分布しないとされる。実際、八丈島では稀にマダイが釣れる程度である。しかし、一昨年から八丈町、漁業組合そして東京都が小笠原父島産のマダイ稚魚を八丈島で年間数万尾程度放流している。小笠原は八丈島より南下することさらに600キロ余りで、もともとマダイは生息しなかった。それが、昭和57年に東京都水産試験場が父島でマダイの採卵・ふ化養殖試験に成功して以来、年間数百万尾の単位で生産できるようになり、その稚魚が八丈島へも運ばれて放流されるようになった。まだ、放流効果は現れていないが、そのうち八丈産のマダイでお祝いができるかもしれない。ところで、魚類分類学上のスズキ目タイ科に属する由緒正しいタイは、我が国に限れば、マダイ、チダイ、キダイ、ヘダイ、クロダイ他の13種類しかいない。ところが、日本産魚類図鑑を見ると、標準和名にタイの付く魚は三百数十種類余りもある。それゆえ、上記13種類以外の例えばアオダイ、メダイ、ハマダイ(方言はオナガダイ)、キンメダイもタイ科ではない。マダイとは「赤の他人」ならぬ「赤の他魚」である。「腐ってもタイ」には勝てぬのが道理で、最近、温泉地で養殖される外国から移入された淡水魚ティラピアでさえチカダイと言う名が付けられる始末である。「サバは生き腐れ」だが、タイにあやかりタイ魚が余りにも多い。mu
アオダイ写真
写真・アオダイ

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