平成17年10月22日、東京都水産海洋研究推進プロジェクトチーム主催の「海の恵み」大島シンポジウム「豊かな藻場の回復をめざして」を大島勤労福祉会館で開催しました。当日は雨にもかかわらず島内はもとより、東京からも来島した参加者総数は115名と会場が満員となる盛況でした。講演は研究者、漁業者、高校生研究グループなど多彩な顔ぶれでおこなわれ、会場との活発な質疑応答がかわされました。


企画の趣旨

東京都水産海洋研究推進プロジェクトチーム


伊豆大島の海は島の漁業にとって重要な生産の場であり、島の観光産業にとっても釣り場やダイビングスポットなど経済価値を生み出す重要な場所でもあります。沿岸に存在する藻場(海藻群落)は、そこで生活する生物にとって毎日の生活を営む餌場であり、稚仔魚や幼生にとっては外敵生物から逃げ隠れできる大事な生育の場です。
 ところが、大島の沿岸海域では、平成10年頃より藻場を形成していたアントクメ(ヒロメ)が極端に減少し、期を同じくして、アントクメなど海藻類を餌料とするサザエなど貝類の漁獲量も減少してしまいました。藻場の衰退は大島だけではなく、八丈島や三宅島でも確認されています。
東京都では、平成16年よりこれら「海の荒廃・漁場の異変」へ対処するために、東京都島しょ農林水産総合センター(旧水産試験場)を中心として、首都大学東京(旧東京都立大学)、東京海洋大学そして岡山理科大学と連携して、東京都水産海洋研究推進プロジェクトチームを立ち上げて、調査研究を展開しているところです。
 今回は、伊豆大島で東京都立大島南高校、地元漁協とも連携して行ってきた、アントクメの生活史や人工培養試験、漁場での食害動物調査、海藻礁などの増殖技術開発に取り組んできた成果を皆様に御紹介して、藻場の回復と増殖をめざしたシンポジュウムを企画しました。研究者、漁業者、行政関係者、教育関係者、大島町民、それぞれの立場から意見や情報を交換して実のあるシンポジュウムにしたいと考えています。


司会:東京都島しょ農林水産総合センター

司会:東京都島しょ農林水産総合センター
村井衛・振興企画室長

東京都水産海洋研究推進PT座長

東京都水産海洋研究推進PT座長
桑澤清明・岡山理科大学教授


藤井静男・大島町町長

藤井静男・大島町町長


講演要旨


横浜康継(宮城県南三陸町自然環境活用センター所長)

(基調講演)地球温暖化と磯焼け
横浜康継(宮城県南三陸町自然環境活用センター所長)


海藻や海草の茂みが消失する磯焼けの原因として光量の不足や水温の上昇を挙げることができる。光量不足は都市下水が海水を汚濁させることによって起こるため、私たちの努力次第で改善することも可能と言えるが、水温上昇は地球温暖化に伴うものである可能性が大きい。
 海中に森をつくるコンブ科の海藻は北から南へ向けてコンブ類・アラメ・カジメ・アントクメという順で入れ替わる。これは種類ごとに生育の適温が異なるためだが、大島の海中には最も南に分布する種類と言えるアントクメが生育している。伊豆半島では東岸にアラメとカジメ、西岸にアントクメがそれぞれ生育しているが、両岸間の水温差は1℃から1.5℃にすぎないため、地球温暖化によって東岸でアラメもカジメも消失し、代わってアントクメが生育するようになる可能性がある。大島ではアントクメの消失が懸念されるため、この海藻の生理的性質を調べるとともに、水温の監視を続ける必要がある。


一般講演1

一般講演1 磯焼け原因の究明にむけて:沿岸の栄養環境・食害動物について
黒川 信(首都大学東京・理工系生命科学教室)


磯焼け発生には水温変化、食害、栄養不足など多様な要因が挙げられる。単独の原因で発生するというより、海域ごとで異なる様々な要因が連関しあって引き起こされていると推測されるケースも多いようである。
 伊豆諸島沿岸でのアントクメやテングサ資源激減の対策には、復活のための新技術開発と並行して海域ごとの根本原因の科学的究明が必須である。食害動物の調査研究では、長時間水中ビデオ撮影や胃内容物調査などにより先ず候補動物を特定し、生態学的調査により現存量や摂食量を推定して、引き続きその動物の除去実験や防護網設置の効果などを検討する。窒素元素や酸素元素の安定同位体比を用いた調査では、陸からの河川水やわき水の沿岸域への拡散状況、海藻が必要とする硝酸塩類などの栄養塩類が陸から沿岸にどれだけ供給されているのかなどについて定量的調査を行い、沿岸の栄養環境と海藻の生育との関係を明らかにしようとしている。


一般講演2

一般講演2 アントクメ藻場の復活に向けた取り組み
駒澤一朗(東京都島しょ農林水産総合センター大島事業所研究員)


当センター(旧東京都水産試験場)では、平成13年度よりアントクメに関する調査研究を行い始めた。アントクメについては、生長や成熟に関する知見がほとんどないため、平成13年から15年まで、波浮港に残ったアントクメ藻場において、その胞子体の生長と成熟に関する調査を行った。この調査により胞子体は7月下旬より遊走子を放出していることが分かったため、平成14年にはスポアバックによる母藻投入を行った。また、平成16年からは植毛板を用いたアントクメの移植を行っている。


一般講演3

一般講演3 伊豆大島周辺におけるアントクメの生息域調査
東京都立大島南高等学校 アントクメプロジェクトチーム


 伊豆大島沿岸には、水産上重要なサザエ、アワビなどの餌となるコンブ類のアントクメが生息しています。平成10年以降、そのアントクメが減少及び消失していることが報告されています。
 大島にある本校では、アントクメプロジェクトチームを立ち上げてこの問題について研究することにしました。その内容は、大島沿岸の6ポイントに潜水し、アントクメの有無や海底状況を調査しました。その時のデータをもとに、現在の大島におけるアントクメの分布状況をまとめました。
 また、学校付近のトウシキと呼ばれる磯場に生息しているアントクメの生長を2ヶ所で定期的に計測(葉長、葉幅、湿重量)し、記録しました。そのデータをもとにトウシキにおけるアントクメの成長の様子を紹介します。


一般講演4

一般講演4 岡田地区におけるアントクメ母藻投入
伊豆大島漁協 白井 孝


 平成12年に父の跡を継いで漁師になった。ちょうどその頃、以前は島中に生えていたアントクメが激減し、サザエ、アワビの餌がなくなり、貝類資源に影響がでるのではないかと漁師仲間と心配していた。トーシキには少しアントクメが生えていると聞いたので、自分で3月ごろ、少し採集しロープに挟み込んで沈めたところ、5月にある程度生長していたが、その後、食害に遭い、うまくいかなかった。その後、漁協職員の伝手で試験場と知り合い、平成14年より試験場と一緒に母藻投入を行っており、今年は2ヶ所にスポアバックを投入した。


質疑と総合討論


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閉会の挨拶

東京都島しょ農林水産総合センター 岩田哲所長

東京都島しょ農林水産総合センター 岩田哲所長