小笠原諸島海域におけるソデイカの漁業生物学的特性 [5145KB pdfファイル] 

安藤和人、錦織一臣、土屋光太郎、木村ジョンソン、米沢純爾、前田洋志、川辺勝俊、垣内喜美男
 小笠原海域でのソデイカの漁獲は10月~翌年7月の長期にわたり、CPUEは12月と2月のピークを示すことから来遊盛期は12月から2月と考えられた。漁獲されるサイズは外套長が60~84cmと大型で、釣獲頻度と漁具到達水深の関係から昼間における主分布層は400~500mと考えられた。ソデイカの年齢は軟甲上の成長線が1日周期で形成されることから、小笠原海域のソデイカは1年で外套長80cm前後まで成長すると考えられた。海底地形から漁場の特徴を見ると、深い海溝と陸棚の間の傾斜の緩やかな海底斜面が漁場となっていた。ソデイカの胃内容物調査では、ハダカイワシ科魚類やホタルイカモドキなどが認められた。ソデイカの主漁場となった聟島~母島列島神野東側海域はアカイカやメカジキなどの好漁場であり、マッコウクジラも良く出現する海域であることから、湧昇流などにより餌料生物が豊富な海域と考えられる。雄の精子形成は外套長70cm前後で活発になり、外套長70cm以上では全て精莢を保有していた。雌では外套長74cm以上の個体で卵巣に成熟期卵が見られるようになり、外套長80cmで最も卵巣重量が最も重く外套長85cmで減少していた。しかし、交接痕を保有するのは外套長64cmであったことから、卵巣が成熟する1ヶ月前から交接をする個体があると考えられる。小笠原海域で10月から12月に来遊が確認された外套長64cm以上の大型雌は全て交接痕保有個体であったが、生殖腺成熟度指数は5以下と低い。1月から3月に小笠原海域に生息する前年生まれの個体の多くは未排卵個体が多く、この時期には漁獲量やCPUEが減少すること、そして卵塊の発見が少ないことから、産卵の主群は沖縄周辺など他海域へ移動、産卵している可能性が考えられる。   

小笠原海域で採集したアカイカとトビイカに関する漁業生物学的知見 [1398KB pdfファイル] 

安藤和人、錦織一臣、土屋光太郎、木村ジョンソン、米沢純爾、前田洋志、川辺勝俊、垣内喜美男 
 小笠原諸島海域ではアカイカの雌は10月から12月に来遊する。平均外套長が50cmを超える大型群と1月から6月に来遊する平均外套長40cm台の小型群が認められた。また、外套長組成の多峰型分離によっても11月から3月のアカイカ採集個体は2群に分離できたことから、小笠原海域には産卵・ふ化時期の異なる「春産まれ群」と「秋産まれ群」の2群の雌が来遊しているものと考えられた。アカイカの成熟については、雄については明確な成熟期を判定できなかったが、雌では外套長40~50cmの「春産まれ群」では3月には生殖腺塾度指数が3.89~14.37(平均8.12)、外套長50~60cmの「秋産まれ群」では漁獲の始まる10月には生殖腺塾度指数が2.08~14.06(平均8.12)と2群とも生殖腺塾度指数が十分に高い。また、秋・春来遊群に置いて産卵疲弊個体がそれぞれ20%、11%見られたことから両群とも小笠原海域で産卵していると考えられた。アカイカはソデイカの漁場である小笠原周辺海域の列島線東側で多く漁獲され、この海域は外洋性イカ類の生息に適した漁場環境と考えられる。トビイカはソデイカやアカイカの釣獲調査時に混獲された。今回採集されたトビイカは外套長の大きさから外套背面に小判状の発光器を有する中型群と考えられた。9月から12月に採集した個体は成長途上であるが、12月の2個体は精巣重量が大きく増加して成熟段階が進んでいた。雌では外套長が20~25cmで卵巣重量が最大値を示し、外套長25cm以上では卵巣重量が減少傾向を示すことから、熟卵が卵巣から輸卵管へ排卵されていると考えられるが、その後小笠原海域で採集された個体で輸卵管の重量減少は見られていないので、産卵には至っていないものと推察される。

小笠原海域におけるソデイカ卵塊の採集とふ化・飼育 [2343KB pdfファイル] 

安藤和人、錦織一臣、土屋光太郎、木村ジョンソン、米沢純爾、前田洋志、川辺勝俊、垣内喜美男
1994年6月~1996年6月に小笠原海域で発見されたソデイカ卵塊は8件であった。発見された卵塊は8件中7例が長さ約1.5m、直径15~20cmほどのソーセージ型である。このうち、父島二見湾内で発見された4卵塊を供試した。卵塊は発生が進むと囲卵腔が拡大して比重が変化し、卵塊全体が海面へ浮上して漂うと推察された。各回のふ化・飼育に供した。卵数はおよそ5~10万粒である。採集した卵塊は屋内外の水槽に収容し、適当量のろ過海水で微細藻類のナンノクロロプシスを適量添加しながら流水飼育した。ふ化後は海産ツボワムシ、アルテミア幼生を給餌した。4回の飼育実験の内、最長生存期間はふ化後9日間であった。ふ化後6日目のソデイカ幼生をスルメイカ幼生と比較すると、ソデイカ幼生は外套膜が丸みを帯び、眼球の突出が大きく、ソデイカの特徴である鰭も大きかった。しかし、スルメイカでは見られる触腕が吻状に癒着するリンコトウチオン幼生の特徴は見られなかった。これまでに報告された知見とあわせて考えると、小笠原海域に生息しているソデイカは、2~6月に産卵していることが確認されたが、ふ化幼生が小笠原海域で成長するのか、あるいは他海域に分散するのかは不明である。

伊豆諸島海域におけるソデイカの発見記録と小型個体の採集 [1023KB pdfファイル] 

安藤和人、妹尾浩太郎、加藤憲司、前田洋志、堤清樹 
 
1954年~2003年の伊豆諸島海域におけるソデイカの発見年月日、場所、発見時の状況を整理した。内訳は八丈島で7件、青ヶ島で2件、大島で2件、鳥島、三宅島で各1件であった。既に報告されている小笠原海域での最小個体は母島東方海域で採集された外套長39cm、体重2kgの個体である。伊豆諸島海域で採集された小型個体は2003年に伊豆大島の波浮港港内で採集された1個体と、2002年に三宅島西方約11海里の第2大野海丘付近の海域で東京都水産試験場調査船「みやこ」の舷側で採集された3個体で、この3個体の外套長範囲は17.5~24.4cm、体重範囲は251~636gであった。これらのソデイカはいずれも生殖腺は未熟で性別は判別できなかった。また、ソデイカ軟甲部分を用いた成長線解析結果から推定した日齢は190~230日前後であった。

 

伊豆諸島産アワビ類に対する不稔性アナアオサと配合餌料の餌料価値の比較 [1244KB pdfファイル] 

駒澤一郎、工藤真弘、杉野隆
 
伊豆大島において、1997年に採卵・ふ化したクロアワビ、メガイアワビ、八丈島産親貝由来フクトコブシ、大島産親貝由来フクトコブシの3種類4群の稚貝に対する不稔性アナアオサと市販のアワビ用配合餌料の餌料価値を340日間の飼育実験により比較した。生残率に関しては、大島産親貝由来フクトコブシで不稔性アナアオサが配合餌料を上回ったが、その他の群では配合餌料が不稔性アナアオサを上回った。殻長の日間生長量や増重量は全ての群で配合餌料が不稔性アナアオサを上回った。
 フクトコブシでは成長に対する不稔性アナアオサの餌料価値は配合餌料にやや劣る程度であったが、クロアワビ、目貝アワビでは明らかに配合餌料のほうが良いという結果になった。

 

異なる水温で飼育したアワビ類3種の成長の差異1 [1128KB pdfファイル] 

駒澤一郎、工藤真弘、杉野隆
 
伊豆大島において1997年に採卵・ふ化したクロアワビ、メガイアワビ、八丈島産親貝由来フクトコブシ、大島産親貝由来フクトコブシの3種類4群の稚貝について4段階(22℃,24℃,26℃,28℃)の恒温条件下で157日間飼育実験を行った。餌にはアワビ配合餌料を用いた。生残率はクロアワビとメガイアワビの28℃区でそれぞれ75%、85%であったものの、他の区では90%以上であった。飼育水温22~28℃における種類別の養殖適水温対はフクトコブシで26℃、クロアワビで22℃、メガイアワビで22~24℃の範囲にあると考えられた。

 

異なる水温で飼育したアワビ類3種の成長の差異2 [1128KB pdfファイル] 

駒澤一郎、工藤真弘、杉野隆
 
伊豆大島において1998年および1999年に採卵・ふ化したクロアワビ、メガイアワビ1年貝と0年貝の養殖適水温を知るために4段階(13℃,16℃,19℃,22℃)の恒温条件下で、1年貝は262日間、0年貝は248日間飼育実験を行った。餌にはアワビ配合餌料を用いた。生残率はクロアワビ1年貝22℃区で80%、メガイアワビ1年貝16℃と22℃区で80%、クロアワビ0年貝22℃区で84%、メガイアワビ0年貝22℃区で80%とやや低いものの、他の区では90%以上であった。水温13~22℃における成長から見た養殖適水温は、クロアワビ1年貝で13℃、メガイアワビ1年貝で13~16℃、クロアワビ0年貝で16~19℃、メガイアワビ0年貝で19℃であると考えられた。

 

タカベ飼育魚の成長及び鱗、耳石の輪紋形成 [2821KB pdfファイル] 

安藤和人、亘真吾、米沢純爾、橋本浩、妹尾浩太郎
 
1999年5月、6月及び2001年5月に伊豆大島でタカベ幼魚を採集し、それぞれ2年3ヶ月、1年8ヶ月飼育したタカベを供試し、成長と鱗、耳石の輪紋形成過程を調査した。
 鱗は体側の胸びれ内側部位から1個体当たり左右10枚ずつ採取した。耳石は扁平石を樹脂包埋した後切断し、切片を研磨して用いた。尾叉長と耳石の間には有意な相関が認められた。しかしながら、飼育されたタカベの場合には、鱗の輪紋形成は飼育環境変化に対して敏感に反応するため、同一年齢個体間あるいは同一個体でも調べる鱗によって異なる結果になった。一方、耳石は生後1年半の4月から5月に輪紋の第1輪が形成され、翌年の3月から8月に2本目の輪紋が形成されることが判明した。耳石輪紋の形成は安定的で、ほとんどの個体で年1輪確実に形成されると考えられた。

 

調査研究要報 213 2004年3月