フクトコブシ稚貝の成長に餌料と飼育籠設置方式が与える影響 [879KB pdfファイル] 

米山純夫・木本 巧
 フクトコブシ稚貝(殻長20mm) を餌料5種及び飼育籠の設置方式4種により1年間水槽飼育し、成長を明らかにした。年間の殻長成長量はマクサ投与区で20.1mmと最も良く、次いでタマナシモク区、乾燥コンブ区、配合飼料区の順であった。カギイバラノリは3~5月の繁茂期のみの飼育であったが、成長量は5.6mm とテングサの約2倍の成長であった。飼育籠の設置方式4種を比較すると、水槽底面に設置した籠による成長が最も良く、残る台上飼育、垂下飼育、多段飼育による成長には有為な差はみられなかった。餌料試験における生残率は、成長の良い区ほど高い傾向がみられた。

フクトコブシ稚貝に対する数種海藻の餌料効果 [770KB pdfファイル] 

東元俊光・村井 衛
 1994年8月26日~1995年6月1日の277 日間、流水式FRP 陸上水槽でフクトコブシ稚貝を飼育し、生テングサ、乾燥テングサ、リボンアオサ、リボンアオサと生テングサの交替投与、乾燥コンブと生テングサの交替投与の5種餌料について成長効果を比較した。
 殻長、体重ともにアオサ区、アオサ/テングサ区の成長が最も良く殻長成長量は16.6mm、次いでコンブ/ テングサ区、テングサ区、乾燥テングサ区の順であった。
 乾燥テングサ区を除く4区について同一殻長での体重を天然貝と比較したところ、4区ともに天然貝よりも重い傾向が認められた。特にアオサ区は天然貝の1.23~1.30倍であった。

八丈島におけるギンダカハマの産卵期について [538KB pdfファイル] 

工藤真弘・堤 清樹・長沼 広
 伊豆諸島に広く分布し、重要な水産資源であるギンダカハマの産卵期について調べた。産卵期は生殖腺塾度指数の年変化によって推定した。
 生殖腺塾度指数のピ-クは年によって多少の違いはあるが、7月上旬から8月上旬にあり、その後10月頃まで減少を続けた。この減少期間が産卵期と推定されるが、特に減少の大きい8月、9月が産卵盛期と推察された。産卵期は旬平均水温が25℃を越える時期とほぼ一致し、高水温が産卵の誘因の一つになっているものと考えられた。

ニジマスの聴覚特性 [2198KB pdfファイル] 

山川正已・池谷文夫・畠山良己
 信号音と放声と電気ショックを組み合わせた条件付けを行い、信号音放声時の心拍間隔の変化を音知覚の判定基準とする方法を用いて、ニジマスの聴覚特性を測定した。
 ニジマスは調査した50~1000Hzで音知覚が可能でありそのオ-ジオグラムは200 ~300Hz に聴覚感度の良い領域をもつV型曲線を示した。
 最も感度が良かった300Hz での聴覚閾値は86.8±3.4dB で、cod やマダイと同様、非骨鰾類としては比較的聴覚の優れたグル-プに分類された。聴覚にはエネルギ-積分機能が認められ、信号音の持続時間が50~500ms の範囲内では持続時間が長くなるに従い聴覚閾値は小さくなった。時期を変えて測定された聴覚閾値には約17dBの差が認められ、聴覚に及ぼす水温の影響が考えられた。臨界比は100Hz で31.6dB、200Hzde34.0dB 、300Hz で35.8dB、500Hz で51.2dBであった。また、300Hzでの臨界帯域幅は約1000Hzであり、ニジマスの聴覚が雑音に弱い特性をもつことを示した。
 マスキングが発生し始める雑音スペクトラムレベルは約70dBであった。
 実際の飼育池でも注排水音を主因とする雑音が発生し、300Hz 以下の周波数域では70dBを上回っており、飼育下のニジマスが雑音の影響下で生活している様子が伺えた。
 2本の側線管を切断したあとも音源方向の変化を知覚できたことからfar-field での音源方向知覚が可能であると考えられた。鰓は音知覚及び音源方向知覚にはほとんど関与していなかった。前後、左右の音源方向の変化を知覚するためには聴覚閾値より6.5dB 高い音圧が必要であった。
 角度弁別域は37°であった。
 音響学習を利用して魚群を音源方向へ集めることを想定した場合、信号音の周波数は200 ~300Hz,持続時間は200ms 以上、放声音圧は150dB 以下であることが適正であると考えられた。
 信号音の有効距離を計算した結果、R1、R2、R3、はそれぞれ、89m 、631m、1412m であった。

東京都におけるマス類成魚感染型IHNの発病事例 [792KB pdfファイル] 

小野 淳
 全国的に診断件数が増加している成魚感染型IHN発病の現状を把握するため、1983年( 発病確認時) から1996年9月30日までの症例を調査し、魚体重別の累積へい死率、へい死期間、発病時期などを明らかにした。発病時期は春、秋に集中し、夏場の発病は少なかった。また、100gを超える大型成魚は春先に発症する傾向がみられた。
 外部所見、内部所見ともに症状は稚魚期のものと類似していたが、外部所見は魚体重が重くなるにつれ症状が現れない傾向がみられた。
 大型魚は、小型魚に比べ、全体的に累積へい死率は低く、へい死期間が長期化する傾向のあることが判明した。その一方、稚魚なみの高いへい死率もみられ、何らかの環境変化やストレスの影響が示唆された。IHNは、成魚においても魚体重に関係なくその発病事例が確認された。従って、IHNは、稚魚期の疾病という考え方から、成魚においても発病する疾病だという考え方へと転換していく必要がある。

 

調査研究報告 210 1998年3月