3800種もいるという日本産魚類の中で、最も東京らしい名前をもつ魚といえば、なんといってもミヤコタナゴを挙げなければならないでしょう。ミヤコタナゴなどのタナゴ類は体長10cmに満たない小魚で、日本列島には15種ほどが暮らしています。そしてその多くが絶滅の危機に瀕しているのです。
 かれらは、いずれも生きた貝の中に産卵するという変わった習性をもっていますが、この貝が水質汚濁に大変に弱いのです。したがって、都市化に伴う水質の悪化でまず貝が死に絶え、次いでタナゴの仲間も姿を消してしまったのだと思います。残念ながらミヤコタナゴも都内ではすでに絶滅し、現在は栃木、千葉両県の一部にしか生息していません。

生きた貝の中に産卵するタナゴの仲間(体長8㎝)
 ミヤコタナゴが新種として発見されたのは1909(明治42)年、採集場所は東京ドームのすぐそば、文京区の小石川植物園内の池でした。この魚は当時関東一円にごく普通に見られ、都内でも、善福寺川などに生息していました。都内で絶滅したのは、日本の高度成長期、1950年代後半から1960年代にかけてのことと思われます。
 やはりこの時期、神田川や善福寺川などに生息していたムサシトミヨというトゲウオの仲間も絶滅しています。この魚は体長が5cmほどで、現在は埼玉県の1カ所に棲息するのみとなってしまいました。かれらが絶滅した理由は、棲みかであった武蔵野の湧水が都市開発で激減したためといわれています。このほかスナヤツメ、ホトケドジョウ、ギバチ、カジカ、ジュズカケハゼなどの川魚でも、その 生息域は大幅に縮小しています。かつて、かれらは都内に広く分布していたのですが、現在は多摩地域の一部にかろうじて命脈を保っている状況です。

水草で巣を作るムサシトミヨ(体長5㎝)
  一方、高度成長期に「死の川」とまで呼ばれた都内河川の水質は、各種の環境対策などによってかなり改善されています。島しょ農林水産総合センターの調査でも、昨年多摩川を遡上した天然アユは過去25年間で最高の215万匹を数えました。こうした成果も踏まえ、今後、首都東京の川で上述のような希少魚が守られていくならば、それこそ全国環境行政の範たりうるのではないでしょうか。