日本列島の各地には「春告魚」と呼ばれる魚たちがいます。北海道のニシン、関東・東海のメバル、瀬戸内海のサワラなど、いずれも春先によくとれるので、この名前があります。そして伊豆諸島の春告魚といえば、なんといってもハマトビウオだと思います。この魚は春早くから獲れるので“春トビ”の地方名で呼ばれています。さっぱりした白身魚なので、刺身やたたきなどで賞味されるほか、くさやの干物にも加工されます。
 一口にトビウオといいますが、トビウオの仲間は世界に50種ほどが知られ、日本周辺には、そのうちの30種が記録されています。中でもハマトビウオは世界最大のトビウオで、体長が50cmに達するものもあります。これに対して、やはり伊豆・小笠原諸島に棲息するツマリトビウオという種類では、体長が15cmくらいしかありません。
 ハマトビウオは伊豆諸島の重要な漁業対象種で、1950~80年代前半頃には毎年100万~800万匹近い漁獲がありました。ところが80年代後半から資源が激減し、90年代前半にはついに漁獲量ゼロとなってしまいました。島しょ農林水産総合センターでは、調査船を駆使して、年齢、生長、回遊などの調査を行うとともに、科学的データに基づく毎年の許容漁獲量を算出して資源の回復に努めました。この結果、2000年頃から漁獲量が上向きはじめ、昨年はついに90万匹台まで回復したのです。
  トビウオは「飛び魚」ですから空中を飛翔します。飛行距離は、種類や体の大きさ、水温などによっても異なりますが、最大距離は400mともいわれています。写真をご覧になっていただければわかりますが、トビウオの胸ビレは大きく、鳥の翼のようです。かれらは水面を勢いよく泳ぎ、この翼を広げてグライダーのように滑空するのです。ですから胸ビレを上下に羽ばたかせることはありません。また、トビウオの飛ぶ高さは水面からせいぜい数メートルです。

胸ビレの大きなトビウオ
 調査研究の一環として、私たちがトビウオの人工ふ化飼育をした時には、生後1ヶ月、体長わずか3センチほどの赤ちゃんトビウオが、すでに水槽の水面をピョンピョンと跳ねている微笑ましい姿が観察できました。

花びらを浮かべたようなトビウオ稚魚の群泳