ヤマメの産卵期は紅葉の鮮やかな秋です。このころ奥多摩では、親魚が川底に産卵し、その後力尽きて死んでいきます。産み出された卵は冬の間にふ化し、春先には体長4cmほどの小ヤマメとなります。やがて満1歳の秋を迎える頃、体長15cmほどに育ったヤマメの一部は、多摩川を下って東京湾に出ます。そして冬の間を海で暮らし、翌春になって再び川を遡るのです。海へ下ったヤマメは名前をサクラマスと変えます。広い海を泳ぎ回り、小魚やイカなどをたっぷり食べたサクラマスは、身に脂がのり、体長40~50cmにも成長します。一方、奥多摩に残ったヤマメは、餌の少ない渓流で暮らすため、体長はせいぜい30cmどまりです。ヤマメもサクラマスもとても美味しい魚で、川魚特有の臭みもありません。

ヤマメ

東京湾で獲れたサクラマス(体長40㎝)

東京湾で獲れたサクラマス(体長40㎝)


  奥多摩さかな養殖センター(旧 水産試験場奥多摩分場)では、1961年に全国で初めてヤマメの養殖に成功し、その後も技術改良に取組んできました。そして1998年、先端技術を応用して大型ヤマメ(「奥多摩やまめ」と命名)の作出に成功したのです。
 人工受精させたヤマメの卵は、普通水温12度くらいのふ化槽の中でふ化させます。一方、「奥多摩やまめ」をつくるには、受精後まもない卵を28度のぬるま湯に15分間漬けたあと、通常のふ化槽に戻してやるのです。
  ヤマメの細胞内には、オス親由来の33本とメス親由来の33本、あわせて66本の染色体が入っています。この2セットの染色体を持つ普通のヤマメを二倍体と呼びます。ところが、受精直後にぬるま湯に漬けた卵では3セット、すなわち99本の染色体を持つようになるのです。このようなヤマメは三倍体と呼ばれ、成熟しません。タネなしスイカやタネなしブドウも、実は三倍体なので成熟せず、種子ができないのです。
  成熟しないと、産卵期になっても卵巣や精巣に栄養がとられないので身が痩せません。また、産卵後に死ぬこともないので、寿命が延びて体長が50cmにも達します。体長20cmほどの普通のヤマメでは塩焼きが主な調理法なのですが、大型の「奥多摩やまめ」は、サクラマスと同様に刺身や鮨などに使えます。現在私たちは、地元と連携してその普及に努めているところです。

大型の「奥多摩やまめ」(奥)と普通のヤマメ(手前)

大型の「奥多摩やまめ」(奥)と普通のヤマメ(手前)