お鮨屋さんで最も人気があるのは、何といってもマグロでしょう。しかし一口にマグロといっても、品書きを見るとクロマグロ(別名:本マグロ)、メバチ、キハダ、ビンナガ(別名:ビンチョウ)など、何種類もの名前が記してあります。その上、赤身、中トロ、大トロなど、体の部位によって味も値段も大きく変わります。そしてさらには、産地によって、また、鮮魚か冷凍ものかなどによっても評価が異なります。このように細かく分けられた品書きを見ていると、日本人は魚食民族なのだなあとつくづく感じてしまいます。
  マグロ漁業で最も多く用いられるのは、延縄(はえなわ)という漁法です。延縄は、長さが数十キロから百キロにもおよび、この間に何千本もの鈎がついています。漁船は、エサを付けた延縄を投入してから魚がかかるのを待って仕掛けを揚げます。全部を揚げ終わるには、一日以上かかることもあります。
  この延縄漁では、マグロ類のほかにカジキの仲間もよく釣れます。どちらも刺身用の高級魚で、時速百キロ以上の高速で泳ぐ魚としても知られています。このカジキ類のことを、カジキマグロと呼ぶ人がよくいます。しかし、マグロとカジキは全く別の魚なのです。カジキの仲間は上アゴの先端が長く伸び、尖っています。そして分類学的にはマカジキ科あるいはメカジキ科に属します。一方、マグロ類は上アゴが伸びず、すべてサバ科に属しています。しかし、ともに外洋を泳ぎ、延縄で漁獲されます。また、大型で刺身や鮨ネタに向くので、料理屋さんなどが同じように扱い、カジキマグロという名前がつけられたのかもしれません。

上あごが長く伸びるメカジキ

上あごが長く伸びるメカジキ


  伊豆・小笠原諸島では、クロマグロやキハダなどのマグロ類、あるいはマカジキ、メカジキなどのカジキ類が年間300~400トン漁獲され、体重百キロを超すものも釣れます。こうした大型魚は身が厚いので、普通に氷に漬けただけでは体の芯まで冷やすことができません。そのため船上では、漁獲後なるべく早くエラや内臓を取除き、魚の周囲はもちろん、腹の中にも氷を詰めて冷やしてやります。そうすれば鮮度が保て、「近海物」として遠洋の冷凍マグロよりも高値で出荷できるのです。

八丈島で漁獲された本マグロ