夏休みに羽田空港へ向かうモノレールに乗ると、東京湾の運河沿いにたくさんの釣り人が竿を出しています。これはみなハゼを釣る人たちで、釣れるのはほとんどがマハゼという種類です。

品川区の京浜運河で釣れたマハゼ

品川区の京浜運河で釣れたマハゼ

マハゼは、晩秋から初冬にかけて海底にトンネル状の巣穴を掘り、その天井に2mmほどの紡錘形の卵を産み付けます。春先にふ化した仔魚は、当初水中を漂いながらプランクトンを食べていますが、5~6月頃になると岸近くの海底に定着します。そして7月頃になると、体長が5~6cmに達して、釣れるようになるのです。

東京都島しょ農林水産総合センターの竹芝庁舎に展示されているマハゼ巣穴の模型

東京都島しょ農林水産総合センターの竹芝庁舎に展示されているマハゼ巣穴の模型


 夏休みの8月頃になると、大きなものでは体長13cmくらいに成長し、秋のお彼岸頃には15cmほどになってこの釣りは最盛期を迎えます。そして秋の深まりとともに深場へ移動して産卵したのち、大半が死んでいきます。
 マハゼは貪欲な魚で、誰にでも簡単に釣れます。道具立ても簡単で、1500円もあれば一通り揃えることができます。ですから、夏休みに親子で釣りがしたいなと思っているお父さんには最適です。おすすめの釣り場は、品川区の京浜運河や大田区の海老取川などなど、いずれも近場で江戸前の釣りが堪能できます。
 おまけにハゼは味の方も絶品で、唐揚げや天ぷらにして熱々を頬張れば、ほっこりとした白身がビールと最高のハーモニーを奏でます。また、大きめのハゼを丁寧におろして刺身にすれば、コリコリした歯触りと、上品な脂の甘さが口中に広がります。釣りたてのハゼならではの究極の味わいです。
  東京湾では、1950年代後半から70年代にかけて汚濁が進み「死の海」と呼ばれる時代がありました。とくに60年代後半から70年代前半には魚影が全く認められず、江戸前のアオギスやハマグリは、この頃に絶滅してしまったのです。マハゼも一時は姿が見えなくなりましたが、排水規制などによって水質が改善されるとともに、再び釣りができるようになりました。絶滅したアオギスを東京の海に復活させることは困難ですが、今後は、魚の産卵場や稚魚の保育場となる干潟や浅場を守っていくことによって、次の世代にハゼ釣りの楽しさを引き継いでいかねばなりません。