タカベは伊豆諸島を代表する魚です。体長は25cmほど。青味を帯びた体に、黄色い鮮やかな縞の走るの美しい魚です(カラー写真を見たい方は、東京都水産試験場2005年刊「東京おさかな図鑑」をご覧下さい)。夏には水深が30mくらいよりも浅い磯を、大きな群れを作って泳ぎ回り、主として伊豆大島から三宅島にかけての島回りで漁獲されます。

伊豆諸島を代表する魚タカベ

伊豆諸島を代表する魚タカベ


 毎年6月から9月頃にかけて、神津島の漁師さんたちは数十人の集団で潜水し、網を磯回りに張りめぐらし、この中にタカベの群れを追い込んで漁獲します。「建切網(たてきりあみ)」と呼ばれるこのやり方は、タカベをとる代表的な漁法の一つです。
 夏のタカベには上品な脂がのり、刺身はもちろんのこと、煮魚や焼魚、干物や汁物と、どのように料理してもこの上なく美味しい魚です。この魚、関東から九州にかけての太平洋岸に広く生息しているのですが、どういうわけか関西方面ではあまり利用されていません。
 さて、東京都の花はソメイヨシノ、都の鳥はユリカモメと定められているのですが、都の魚はまだ制定されていません。ところが水産国日本の各県には「県魚」を定めている所が少なくありません。岩手のサケ、群馬のアユ、千葉のタイ、三重のイセエビ、広島のカキ、高知のカツオ等々です。今回お話ししているタカベも、東京を代表する魚の一つなので、都魚の有力候補としてノミネートされてもよいのではないかと思います。
 夏の海水浴シーズンが終わり、海が少しずつ冷たくなってくる秋はタカベの産卵期です。私たちの島しょ農林水産総合センターでも、10~11月にはタカベ飼育水槽の排水口に採卵ネットを仕掛けます。産卵は夜間に行われ、半透明で直径1ミリ足らずの卵が一晩に何万粒と採集できます。実は、タカベ野生魚の生態については、まだよくわかっていないところがあり、センターでは卵を人工ふ化させて、生態解明のための研究を続けているのです。
  今年はもう間に合いませんが、来年の夏には伊豆諸島を訪れ、美しい黒潮の海を満喫するとともに、旬の美味しいタカベをぜひ味わってみてください。