サメというと、映画「ジョーズ」の影響もあって、どう猛な人食いザメという印象があります。ですから一般の方に「サメを食べる」というと「えっ、本当ですか」という反応が返ってきます。しかし、漁師さんなど海辺で暮らす人々にとっては、サメもあまたある魚の一種にすぎません。サメを食べるのはごく普通のことなのです。
  海の暮らしは、風や波、あるいは潮を読むところから始まります。いったん海が時化れば、何日も漁に出ることができません。また、潮時を誤れば魚をとらえることはできません。大変な苦労の末に漁獲するのですから、かれらは魚をとても大切に扱います。どんな種類の魚でも、どんな小魚でも、様々な工夫をこらして食卓にのせるのです。

漁獲されたサメ
  フカヒレは高級中華料理の食材としてあまりに有名ですが、サメの利用はこれだけではありません。また、ある種のサメ類には、身にアンモニア臭があって、食べにくいものがあります。しかし、種類によってはアンモニア臭がほとんどなく、サカタザメのように刺身で美味しく食べられるものもあります。
 東北地方の食堂に入って煮魚定食を頼むと、ネズミザメ類の切身が煮魚になって出てきます。たぶん、多くの人はメカジキの煮付けだと思って食べているのではないでしょうか。さっぱりとした白身で、とても美味しい魚です。このほか、すり身にしてカマボコに加工するのも日本人ならではの知恵です。読者の皆さんの中には、イギリスやオーストラリアなどの港街で、庶民の食べ物であるフィッシュ・アンド・チップスを召し上がった方もいらっしゃるかもしれません。あの原料にはツノザメの仲間が使われていることがあります。
  サメ類は世界に400種あまりがいて、ツラナガコビトザメのように体長20センチ足らずの小型種もあれば、10メートルを超すジンベエザメのような大物もいます。かれらの多くは海の生態系の頂点にあり、増えすぎても減りすぎても、そのバランスが崩れてしまいます。21世紀は地球人口がさらに増え、食糧危機も懸念されています。海に囲まれて暮らす私たち日本人は、サメに対して偏見を抱くことなく、上手にこれを利用していきたいものです。