1. 資源変動解析研究(資源管理部)
  2. ハマトビウオのDNAによる系群解析(資源管理部)
  3. キンメダイの卵稚仔分布調査(大島分場)
  4. 八丈島海域におけるキンメダイの産卵期の推定とよう卵数(八丈分場)
  5. 伊豆大島のサザエの成熟と産卵(大島分場)
  6. サザエの放流技術開発試験(大島分場)
  7. フクトコブシ養殖技術開発試験(八丈分場)
  8. 大型生簀によるカンパチ養成試験(小笠原水産センター)  
  9. マグロ・カジキ類たて縄漁業調査(小笠原水産センター)
  10. 活魚の蓄養・輸送技術指導(資源管理部)

(1)資源変動解析研究(伊豆諸島沖合キンメダイの資源量推定)
資源管理部

【目的】

皆さんが食べているキンメダイは、主に伊豆諸島沖合で漁獲されています。1993年からは、静岡、千葉、神奈川、東京の漁業者が協力して資源保護のために管理計画を作り操業してきましたが、年々漁獲量は減少しています。そこで、この海域ではどの程度減少しているのかを、昨年一年間に水揚げされた魚の年齢を調べたり、過去(1987年から)の水揚データから検討しました

【結果】

  1. 10年前に比べて、資源量は57%まで減少しています。特に1990年以降の減少が目立ちます。
  2. キンメダイの寿命は20年位ですが、最近では、大きな魚は少なくなり、6歳以下の若い魚が主に水揚げされています。
  3. 今後は、資源を増やすために、親魚の保護が必要です。

【研究のねらい】

漁業者の皆さんが資源を保護しながら、いつまでも漁業ができ、都民の皆さんに新鮮で美味しいキンメダイを提供できるように、研究をしています。

水揚げされたキンメダイ
水揚げされたキンメダイ


(2)ハマトビウオのDNAによる系群解析
資源管理部

【目的】

伊豆諸島海域に来遊するハマトビウオの回遊経路や他の群れとの交流の有無を解明することは、資源を管理する上で極めて重要なことです。水産試験場ではDNA*1を解析し伊豆諸島海域と屋久島海域との群れの関係を調べています。

【結果】

DNAの一部をPCR法*2により増幅し、DNAを切断する酵素で処理します。その切断パターンからDNAの変異*3を検出し、2海域間の違いを探ります。

今年度はハマトビウオのDNAを増幅させるPCRプライマー(増幅の基点となる短いDNA配列)を作成し、増幅部分のDNA配列を決定しました。現在、このプライマーを用いて1997年から98年に採集した伊豆諸島海域と屋久島海域の標本あわせて約300個体について解析を進めています。

【研究のねらい】

DNAによる解析は、生物を構成する遺伝子そのものに着眼した手法です。今まで形態的、酵素による生化学的な手法で検出できなかった、両海域間の違いが見えてくるかもしれません。

DNAの電気泳動写真
DNAの電気泳動写真
DNAをそのまま目で見ることはできないので電気泳動という方法で観察します。
白く見えるのがDNAです。

用語説明

*1 DNA(デオキシリボ核酸)

遺伝子の正体。A(アデニン), C(シトシン), G(グアニン), T(チミン)という4つ暗号の結合で作られる2本のらせん状の鎖。

*2 PCR(polymerase chain reaction)法

目的とするDNAを特殊な酵素によって増幅する方法。微量のDNAを膨大に増幅することができるため、今日の遺伝子解析の主流となっている。

*3 変異

生物が遺伝的に変わること。DNAの暗号の配列変化によっておこる。


(4)八丈島海域におけるキンメダイの産卵期の推定とよう卵数
八丈分場

【目的】

キンメダイの資源管理を行う上で、産卵生態を知ることは、適正な親魚保護をするための重要なポイントです。八丈分場所属の調査指導船「たくなん」により定期的にキンメダイをサンプリングして、本海域におけるキンメダイの産卵期や産卵親魚の特徴を検討しました。

【結果】

産卵可能なキンメダイの大きさは、尾叉長が30cm以上、年齢が4+から5の個体であることがわかりました。生殖腺熟度の季節変化から、産卵期は伊豆諸島北部海域の産卵期よりも1ヶ月早い6月から9月であると推測されます。成熟した卵巣中に存在する卵数(よう卵数)は、6月には平均で157万個(最大436万個、最小40万個)ありました。卵巣1g当たりの卵数は、27,000個と推定しました。よう卵数と尾叉長との関係では、尾叉長35cmで150万個、尾叉長40cmで280万個の卵を持っています。

卵数を計数する研究員
卵数を計数する研究員

【研究のねらい】

八丈島周辺海域におけるキンメダイの産卵生態研究はこれまでに報告がなく、今回が初めてです。本種は産卵期中に数回産卵すると考えられ、今後は、1回当たりの産卵数や産卵回数について検討する予定です。これにより、資源量推定の結果と合わせて、伊豆諸島海域におけるキンメダイについて、産卵された卵から漁場に加入する割合が明らかになり、キンメダイの資源管理を行う上で有効な基礎資料となります。


(5)伊豆大島のサザエの成熟と産卵
大島分場

【目的】

サザエ資源を維持し、有効に利用するためには、正確な産卵期を知る必要があります。水産試験場では、1995年より伊豆大島南部(差木地、浮波港)のサザエ漁場で毎月1回程度、サザエを採集して生殖腺の熟度変化を調査しました。

【結果】

年によっても異なりますが、サザエはおおむね春先から成熟が進み、7月上旬には熟度が最大となって産卵が始まり、以降8月、9月と産卵が続き、10月には終了しました。従って、伊豆大島でのサザエの産卵盛期は7月から9月と推定されました。生殖腺の組織学的観察結果からは、サザエは産卵期間中に同一個体が何回かに分けて産む、多回産卵をすると考えられます。

成熟した軟体部 左(緑色)♀、右(白色)♂
成熟した軟体部
左(緑色)♀、右(白色)♂

【研究のねらい】

水産資源は適正な産卵保護をすることによって何代にもわたる再生産が可能となります。このような特性は、他の天然資源である鉱物や化石燃料には見られません。このためには、産卵場や産卵期を正確に知っておくことが必要ですが、海域によっては差があるようです。今回は、大島南部海域を重点的に調べました。


(6)サザエの放流技術開発試験(放流サザエの成長)
大島分場

【目的】

東京都では、現在、伊豆諸島のサザエ資源を増やすべく、人工種苗を生産して放流しています。今回は、平成9年2月に伊豆大島南部の差木地漁協の禁漁区で放流したサザエ人工種苗を1ヶ月ごとに測定して、放流後の成長を追跡調査しました。

【結果】

放流時に殻高17mm、体重1.8gであった貝は、1年2ヶ月後の平成10年5月には東京都の漁獲制限殻高である5cmを越えました。そして、その後も順調に成長して放流2年後の平成11年2月には殻高76mm、体重98gにまで成長しました。人工種苗のこの成長は同海域に生息する天然サザエとほぼ同様でした。

サザエ放流貝、左(再捕時)、右(放流時)
サザエ放流貝、左(再捕時)、右(放流時)

【研究のねらい】

天然貝に比べて、人工種苗は成長が悪いのではないか?良く言われていますが、天然海域へ放流後には、決してそのようなことは無いことが今回の試験から明らかになりました。


(7)フクトコブシ養殖事業化試験
八丈分場

【目的】

伊豆諸島特産のフクトコブシの養殖試験も3年目を迎え、飼育の方式や餌料海藻の種類などについては一応の成果が上がっています。フクトコブシ養殖は餌となる海藻が計画生産、安定供給できなければ成功しません。今年度は、この点について検討しました。

【結果】

  1. アオサ類が他の海藻に比べて高い餌料効果を持つことが明らかとなりました。1年間で殻長20mmの貝が47mmにまで成長しました。
  2. このうち、増殖培養が容易なのは、不稔性アナアオサでした。これにより、天然の餌料海藻が乏しいところでも餌料の安定供給が可能と考えられます。
  3. 不稔性アナアオサは塩蔵しても餌料効果は変わらないので、計画的に生産しておけば、餌料不足にはなりません。

養殖中のトコブシ
養殖中のトコブシ

【研究のねらい】

フクトコブシを陸上で養殖する試みは、全国でも珍しい取り組みです。陸上養殖が可能となれば、伊豆諸島に来島された観光客の皆さんが、いつでもトコブシを味わえるようになります。実験的規模では成功したので、今後は事業化を目指した研究に取り組んでいきます。


(8)小笠原におけるカンパチ養成試験
小笠原水産センター

【目的】

小笠原でのカンパチ種苗生産技術は近年急速に発展し、年間10万尾単位の量産が可能となりました。現在、カンパチの種苗生産は技術的にも難しく、全国的に生産量が少ないので、今後は、小笠原生まれのカンパチ種苗の活躍が期待できます。しかし、生育環境が良好な小笠原の海では、種苗生産に止まらず成魚養殖も可能と考えました。

【結果】

父島で生産した種苗を兄島滝の浦湾内の大型生簀で養成したところ、ふ化後1年2ヶ月で全長50cm、体重3kg以上と非常に良好な成長を示しました。飼育期間中の生残率もほぼ100%に近い結果が得られ、食味試験でも、肉質・味ともに好評で、試験出荷も高い評価を得ることができました。

【研究のねらい】

小笠原では、ウイルス性や細菌性の魚病発生も無いため、無投薬養殖が可能です。今後は、飼育密度や給餌方法等を変えて養殖魚の品質向上を目指します。

カンパチの成長
カンパチの成長


(9)マグロ・カジキ類たて縄漁業調査
小笠原水産センター

【目的】

小笠原諸島海域における主要な漁船漁業は、ハマダイやハタ類など高級魚を対象とする底魚一本釣りです。しかし、この海域にはマグロ・カジキ類など大型回遊魚も豊富に分布回遊しています。小人数でも操業できる新たな漁法が導入できれば小笠原の漁業を活性化できます。そこで、水産センターでは、延縄漁業と比べて低コスト・省力漁法である「たて縄漁法」に着目してこの漁法を地元小型漁船を対象に普及しました。

【結果】

たて縄漁法を導入した結果、図に示すようにマグロ・カジキ類の漁獲高は順調に伸びてきています。調査指導船「興洋」による調査では、大型のイカ類とマグロ・カジキの漁場が同じ場所に形成されることが明らかとなり、両者を同時にも漁獲できる漁具を開発しました。さらには、本漁法により地元漁船がクロマグロを漁獲するなど、これまで未確認であった小笠原海域における本マグロの生息分布も確認されました。

小笠原におけるマグロ・カジキ類の漁獲高の推移
小笠原におけるマグロ・カジキ類の漁獲高の推移
マグロ水揚げ
マグロ水揚げ

【研究のねらい】

小笠原諸島海域には、まだ未開発の漁場が豊富にあると思われます。今回の調査で水温や塩分などのマグロ・カジキ類の漁場環境要因を把握することができました。この資料を活用し、今後の新漁場開発につなげたいと考えています


(10)活魚の蓄養・輸送技術指導
資源管理部

【目的】

これまで、伊豆・小笠原諸島産の魚介類は、ほとんどが氷詰めの冷蔵魚あるいは冷凍魚で東京へ輸送されていました。しかし、最近の活魚ブームで魚介類を生きたまま輸送できる技術は格段の進歩を見せ、まさに先端技術のかたまりです。伊豆・小笠原諸島から、これ以上の鮮度はない活魚を都民の皆さんへ提供します。

【結果】

毎月定期的に巡回し、活魚水槽の水質チェックや飼育指導をしています。また、水産試験場での研究成果を基に、鮮度保持や活魚取り扱いのテキスト「活魚の生物学」を作成して、東京都漁業協同組合連合会主催の産地新システム事業研修会において指導しました。伊豆諸島・小笠原諸島海域に産する水産生物のうちで、活魚運搬の対象となりそうな、魚、貝、イカ・タコなど23種類について取り扱う際の技術的な留意点をわかりやすく解説しています。

巡回指導中の職員
巡回指導中の職員
活魚取り扱いテキスト
活魚取り扱いテキスト

【研究のねらい】

フィッシュビジネスは「鮮度が命」、最近の活魚輸送・蓄養技術の進展には眼を見張るものがあります。先進技術を積極的に取り入れて、黒潮洗う伊豆諸島から亜熱帯の小笠原まで、東京の島々から新鮮な海の幸を味わえるよう研究をしています。