【背景・ねらい】

   キンメダイは都の水産業における最重要資源ですが、その漁獲量は東京都で増加する一方、日本全体としては漸減傾向にあり、資源動向が懸念されています。そこで、資源生態研究の現状における到達点を整理するとともに、調査研究の促進を目的として、移動回遊と資源変動のしくみに関する作業仮説を提案しました。

 

【成果の内容・特徴】

① 卵や仔魚の分布から、キンメダイの産卵は6~9月を中心に、関東~四国沖の各沿岸漁場と、伊豆諸島の各漁場で行われることが確認されました(図1)。国内のキンメダイ漁場では、どこでも産卵が行われているものと推測されます。

② 稚魚は、四国沖から伊豆諸島周辺にかけての黒潮強流帯とその外側域の中層域に多く出現し、紀南礁や小笠原諸島周辺でも採集されています。幼魚(通称:イトヒキキンメ)は、室戸沖、伊豆半島東岸~銚子沿岸、伊豆諸島北部と、いずれも黒潮内側~北縁域の狭い海域において出現が確認されました(図2)

③ 各漁場の尾叉長と年齢組成を調査した結果、銚子沖漁場では若齢魚が多いのに対し、八丈島や奄美大島周辺漁場では高齢魚主体の組成となっています。高知沖と母島周辺漁場では若齢~高齢魚まで出現し、幅広い組成になっていることが分かりました(図3)。

④ 以上①~③を満たす移動・回遊経路として「黒潮域キンメダイ循環モデル(図4)」を提案します。キンメダイは仔魚~幼魚期前半に黒潮とその再循環系を利用して浮遊生活をおくり、幼魚期後半に黒潮を横断して黒潮内側漁場に加入・着底するとみられます。この他に、小笠原諸島周辺では卵~成魚期に至る生活環があることが示唆されました。

⑤ キンメダイの漁獲量、CPUE、尾叉長組成、年齢組成を解析した結果、1991、92、97、98、01年などに卓越年級群が発生し、その後の資源豊度に繋がったものと推定されました(図5)。

⑥ 上記④と⑤を総合し、環境要因がキンメダイの資源変動に及ぼす影響を推測しました(表1)。それらを要約し、「黒潮の蛇行に伴う冷水渦の発生、四国~紀伊半島沖高気圧性渦の持続、黒潮再循環系による西進促進、寒冷レジームの4条件が揃うとき、卓越年級群が発生しキンメダイの資源豊度が高まる」との仮説を構築しました。

 

【成果の活用と反映】

   今回提示した仮説を念頭に、キンメダイ・ワーキンググループ(各県と国の研究機関)との連携を視野に入れて調査研究を推進することにより、資源変動機構の解明が大きく進展すると思われます。更にそれが契機となり、より実効性の高い広域資源管理体制が早期に構築され、キンメダイ資源の持続的利用に繋がることが期待されます。

(米沢純爾)

 

キンメダイの移動回遊経路と資源変動のしくみ