【背景・ねらい】

   当センターでは、昭和58年より多摩川下流域でアユの遡上調査を実施しています。その結果、多摩川における遡上数は近年増加し、平成23年以降は高水準で推移していることがわかりました。東京湾から遡上する「江戸前アユ」については、多摩川の環境改善のシンボルとして都民の関心も高く、また、近年では、内水面漁連により簡易魚道を用いた遡上促進の取組が実施されており、どのくらいのアユが中流域を通過し、上流域に到達しているかといった問い合わせも多くなっています。アユがどこまでのぼっているかについては、平成4年から実施している標識放流の調査から、上流域に到達しているアユがいることはわかりましたが、その数はわかっていません。そこで、多摩川中流域におけるアユの遡上実態を把握するため、定置網による採集を行い、中流域でのアユの遡上数の推定と生活履歴の調査を行いました。

  

【成果の内容・特徴】

①  中流域遡上調査

 平成27年5月下旬~7月下旬の期間に昭和用水堰(多摩川河口から約48km)(図1)において魚道上流に定置網を設置し、入網したアユを計数しました。累積459時間定置網を設置し、アユ3,738尾を採集しました。(図2)旬区切りで整理したアユ入網数から旬別遡上数を推定した結果、6月上旬と7月中旬で多くなりました(図3)。

② 遡上アユの生活履歴の推定

  1)  魚体測定 期間中計301尾のアユを測定したところ、全長6.0~17.1cm、体重1.5~37.8gとなりました。旬別の全長組成の推移をみると調査期間内に全長組成が大型化する傾向がみられました(図4)。

  2) 側線上方横列輪数 計60尾の検鏡の結果、側線上方横列輪数は15~19でした。これは、平成26年に江戸前アユと他地域のアユを比較した結果と同じ傾向でした。

  3) 日齢査定および耳石Sr/Ca比分析 日齢は156~264日でした。全ての試料において海水での生活履歴(図5)が確認されました。

  

【成果の活用と反映】

 5月下旬から7月下旬の調査期間中、平常水位時におけるアユの遡上数を推定し、また、側線上方横列輪数および耳石のSr/Ca比分析により、多くが東京湾からの遡上アユであると推察しました。

 これらの結果は、放流事業、簡易魚道などによる遡上促進の取組や汲み上げ放流のための基礎資料となると考えています。


 

(澤崎昌子)

平成27年多摩川中流域におけるアユの遡上調査