研究の背景とねらい

八丈島におけるカツオ曳縄漁業は、年間生産金額の約4割前後を占める重要な漁業です。しかし、カツオの回遊経路や来遊量は海況等に大きく左右され、漁獲量の変動が激しく安定しません。そこで、漁場形成要因や来遊特性を把握することにより、操業経費の節減、漁場探索時間の短縮等、カツオ漁業の生産性向上に寄与します。


成果の内容と特徴

  1. 漁況変動を分析したところ、豊漁の翌年には極端な不漁となり、その後、徐々に増加する傾向がみられました(図1)。また、年により小型魚が多い年と、中型魚が多い年があることがわかりました(図2、3)。
  2. 「たくなん」で5年間に426尾の標識放流を行い、4尾の再捕を得ました。再捕魚は、鳥島南方から福島県東方まで様々な方向で漁獲されました。(図4)
  3. カツオは、黒潮流路が3月と4月にA型流路の場合に、5月はC型流路の場合に好漁となる頻度が高いことがわかりました(図5)。
  4. 水温鉛直分布と、衛星画像によるクロロフィル量から、カツオ漁場は湧昇により植物プランクトンが多く発生する場所に形成されることがわかりました(図5、6)。
  5. ニューラルネット法により2004年の来遊量予測を行ったところ、使用した2種類のプログラムで異なる予測値が得られ、実際の水揚げ量593トンは、両者の中間に位置していました。予測精度向上のためにはプログラムの更なる改良と入力要素の精査が必要と考えられました。
  6. 漁期中、八丈島近海の漁海況情報に加え、和歌山方面のカツオ漁況を入手し、八丈海洋ニュース等により漁業者に情報を提供しました。また、遠洋水研のカツオ長期来遊予報会議に出席し、他県のカツオ漁況情報を入手し、活用しました。

成果の活用と反映

5年間の調査により、八丈島近海におけるカツオの来遊特性や、海況と漁場に関する知見が集積され、漁場形成条件が明らかになってきました。今後、更に事例を積み重ねることにより、より精度の高い漁場予測が可能となり、操業の効率化にいっそう貢献できるものと考えられます。

森下 浩司


図1 八丈島におけるカツオ水揚量とCPUEの推移

図1 八丈島におけるカツオ水揚量とCPUEの推移


図2 カツオ水揚銘柄の推移

図2 カツオ水揚銘柄の推移


図3 「たくなん」漁獲物の尾叉長組成

図3 「たくなん」漁獲物の尾叉長組成


図4 「たくなん」による標識放流と再捕位置

図4 「たくなん」による標識放流と再捕位置


図5 1972年から2005年のカツオ流路タイプ別CPUE

図5 1972年から2005年のカツオ流路タイプ別CPUE


図6 定線観測による水温鉛直分布と漁場形成

図6 定線観測による水温鉛直分布と漁場形成


図7 2006年3月5日 TERRAクロロフィル画

図7 2006年3月5日 TERRAクロロフィル画