研究の背景とねらい

キンメダイは、漁場単位で魚体組成が異なることが経験的に知られており、伊豆諸島海域のキンメダイ漁場も例外ではありません。しかし、魚体組成と餌料環境の関係についてほとんど解明されていないのが現状です。そこで、キンメダイの胃内容物を把握し、種組成および捕食量の比較をすることにより、漁場における餌環境と成熟段階による餌の選択性について検討しました。


成果の内容と特徴

キンメダイの胃内容物重量比(図1、図2)

平成16年7月から10月および平成17年7月から9月に八丈島で漁獲された273個体および神津島で漁獲された60個体で胃内容物の査定を実施しました。胃内容物重量比は、八丈島産(魚類47%、甲殻類22%)と神津島産(魚類22%、甲殻類6%)とで異なりますが、ほとんどが中層性マイクロネクトンを捕食していることが明らかになりました。


餌生物中の魚類種組成(図3)

餌生物の魚類組成は、ハダカイワシ科魚類が30%から40%を占めており、ハダカイワシ類が有用な餌生物であることが確認されました。また、八丈島産個体では、クロシオハダカやゴコウハダカなどの黒潮系種が多く占めているのに対し、神津島産個体では、大陸棚縁辺種とされているヒロハダカを主に捕食していることが確認され、漁場によって組成が異なることが示されました。


熟度指数と食性との関係(図4)

八丈島産個体を用いて生殖腺熟度指数(GSI)と胃内容物組成との比較をしたところ、GSIが高いグループで胃内容物組成に占める魚類の割合が多くなる一方で、甲殻類が減少する傾向が確認されました。このことから、成熟に伴って甲殻類から魚類へと食性の変化が起こることが示唆されました。


成果の活用と反映

今後、さらに多くの漁場で漁獲されたキンメダイの胃内容物組成を把握するとともに、漁場単位で生物相を把握することで、キンメダイの漁場形成機構の解析が可能となります。これにより、夜間操業禁止や体長制限などの漁場単位でのきめ細かい資源管理方策の立案が期待されます。

堀井 善弘


図1 調査海域と採集個体数

図1 調査海域と採集個体数


図2 キンメダイ胃内容物組成比(左: 八丈島産、右: 神津島産)

図2 キンメダイ胃内容物組成比(左: 八丈島産、右: 神津島産)
八丈島産では魚類の占める割合が高い


図3 キンメダイ胃内容物に含まれていたハダカイワシ科魚類の種組成

図3 キンメダイ胃内容物に含まれていたハダカイワシ科魚類の種組成


図4 生殖腺熟度指数によるキンメダイ餌料種組成

図4 生殖腺熟度指数によるキンメダイ餌料種組成