背景・ねらい

 東京湾の湾奥にはかつて広大な干潟が広がり、そこに生息するアサリ、マハゼ、ノリなどの生物は、多摩川などの流入河川からの栄養塩や有機物を得て繁殖するとともに、水質浄化の機能を担ってきました。長年の埋め立てや汚濁物質の流入により、天然の干潟は著しく減少し、水産生物の漁獲量も減少しましたが、近年の調査で、海浜公園の人工干潟がアサリやアユ稚魚など、多くの水生生物の生息場として重要な機能を担っていることが分ってきました。

成果の内容・特徴

  1. 東京都の内湾では、例えばアサリは最盛期の1960年台には1万トン以上漁獲されていたのに対し、近年は300トン台になるなど、多くの水産生物で生産量は大幅に減少しています(図1)。
  2. 一方近年、お台場海浜公園では1m2当たり2,000個以上のアサリが定着している場所のあることが分りました(図2)。アサリは人工干潟の潮高基準面(概ね、春の大潮の最干潮面)付近に多く分布しています(図3)。
  3. 年々のマハゼの親魚数は、稚魚が浮遊期を過ごす6月までの生き残りと関係しています(図4)。底生生活に移行したマハゼの稚魚は、東京湾奥に形成される夏場の貧酸素水塊を避けるため、溶存酸素の多い干潟や、河川の下流域で成長し親魚へと成長します。
  4. 多摩川の中下流域で産卵、ふ化したアユの赤ちゃんは、羽田空港周辺やお台場海浜公園の干潟でシラスアユに成長し、春の河川遡上に備えることが分ってきました(写真1、図5)。

 成果の活用と反映

 天然干潟が減少した今日、人工干潟が水生生物のナーサリーグランド(幼稚仔の保育場)となり、生物多様性の維持と水質浄化に重要な役割を担っています。今後、東京湾奥における藻場造成技術を開発するとともに、生物に配慮した人工海浜の造成を関係部局に提言します。(千野 力)


水産生物生産量数
図1 水産生物生産量数
お台場海浜公園アサリ定着数
図2 お台場海浜公園のアサリの定着数
お台場海浜公園におけるアサリの水深別生息密度
図3 お台場海浜公園におけるあさりの水深別生息密度
(2003年2月 8cm×8cmあたりの生息数)
マハゼの9月から翌年9月までの採捕数
マハゼの9月から翌年9月までの採捕数
マハゼの資源指数の変動
図4 マハゼの資源指数の変動
アユの流下仔魚(2003年11月、多摩川丸子橋)
図5 アユの流下仔魚(2003年11月、多摩川丸橋)
東京湾奥における稚アユの採捕数
図6 東京湾奥における稚アユの採捕数