背景・ねらい

 東京都では、昭和58年より一貫して、多摩川への江戸前アユ遡上量を調査してきました。その結果、下流の調布取水堰までは多くの稚アユが遡上するようになったことが分かりましたが、多摩川水系(奥多摩、秋川、多摩川中流域)全体を通して江戸前アユが十分利用されるには至っていません。そこで、中・上流域までの江戸前アユの遡上・分布を調べ、遡上阻害要因を特定して解決策を提言します。また、都内水面漁連が計画している江戸前アユの上流部への蓄養放流事業における減耗率の軽減を図るとともに、流域を通じた江戸前アユの食品としての価値を評価・広報することによって、遊漁者や都民に江戸前アユが十分有効に利用できるようにします。


成果の内容・特徴

  1. 江戸前アユの遡上量は、定置網(図1)に入網した稚アユの数から推定しています。遡上量は調査を開始した当初より増加していますが、最近の十数年は、130万尾を上限として変動しています(図2)。 また、多くの堰を超え、河口から50kmを超えて遡上するアユも確認されました(図3)。
  2. 定置網に入網したアユの内、2万5千尾のアユを0日から5日間生け簀(図4)で蓄養し、2回に分けて上流部へ移送試験を実施したところ、99.0%から97.5%が生き残りました。
  3. 釣獲した江戸前アユの食品としての価値を判断するために、香りや味を5段階に評価し、養殖アユと比較しました(図5)。また、江戸前アユの食品としての安全性を実証するために、ダイオキシン含量について分析を予定しています。
  4. 10月から11月に、二子橋付近で川底の掘り起こしにより、アユ産卵場を130m2造成しました。

成果の活用と反映

  1. 餌料となる付着藻類が多い多摩川水系中・上流に江戸前アユが分散すれば、成長が促進され、流域全体でのアユ生産量が増加します。
  2. 江戸前アユの食品としての価値・安全性が明らかになれば、需要が増え、江戸前アユの利用が増えます。
  3. 多摩川全域で天然アユが復活することにより、遊漁者人口の増加が見込まれ、内水面漁業の振興や漁協経営の安定に資することができます。

(木本 巧)


定置網設置状況
図1 定置網設置状況


多摩川のアユ推定遡上数の経年推移
図2 多摩川のアユ推定遡上数の経年推移


平成17年度 標識アユの区域別採捕数
図3 平成17年度 標識アユの区域別採捕数


採捕したアユの畜養生け簀からの移動
図4 採捕したアユの蓄養生け簀からの移動
採捕されたアユ

多摩川2地点アユの食味評価比較
図5 多摩川2地点アユの食味評価比較