背景・ねらい

 東京都では2000年以降、都独自の漁獲可能量(TAC)制度を導入して、ハマトビウオの漁獲量の制限を行っており、現在その資源は順調に回復している。しかしながらハマトビウオの資源は漁獲圧の低かった昔から周期的な大変動を繰り返していることが知られており、資源の変動の要因が漁獲によるものだけでないことは明らかである。今後適切な資源管理を行ううえでは資源変動要因を明らかにすることが重要であり、資源変動要因を明らかにするためには回遊経路を把握し、その生活史を理解する必要がある。今回はハマトビウオの分布情報を収集し、回遊経路、漁場加入までの成長を明らかにすることで、資源変動要因解明のための基礎資料とする。


成果の内容・特徴

  1. 索餌期の分布: 東北水研で実施した夏から秋季の調査で親潮フロントから移行域において未成魚を含むハマトビウオが多数採集された。分布域の水温は17℃から22℃台であった。
  2. 未成魚の冬期の分布: 東北水研、遠洋水研の実施した冬季の調査で黒潮続流域とその南側、東経149°から163°海域で未成魚が採集された。分布域の水温は17℃から22℃台であった。
  3. 稚魚の分散: 東北水研の初夏の調査で三陸沖から東経160°の沖合で初めて稚魚の分布が確認された。これらの稚魚は黒潮により運ばれ拡散されたと考えられた。
  4. 仔魚から未成魚の分布: ハマトビウオ仔魚は2月から6月に伊豆諸島周辺、九州南岸から熊毛海域周辺、奄美大島西方、潮岬周辺海域、稚魚は分布範囲が拡散し、3月から7月に奄美大島西方から本州太平洋沿岸から小笠原諸島周辺から東経160°沖合で、未成魚は夏季の索餌場である道東および三陸沖から黒潮続流の南側で採集されている。
  5. 仔魚から未成魚の成長: 近年の採集された仔魚から未成魚の測定データに過去の情報を加え、成熟年齢について検討を行った結果、すべての個体が成熟産卵するのは2歳以降と考えられた。
  6. ハマトビウオの適水温: ハマトビウオの適水温帯は17℃から22℃台と考えられる。しかし、産卵回遊のための南下時には高水温域に突入することがわかった。
  7. 回遊経路: 採集・漁獲記録から推定回遊経路図を作成した。
  8. 漁場加入までの生態を元に、資源変動に関わると思われる要因の相互作用体系図を作成した。

成果の活用と反映

 今回の明らかになった回遊経路や成長などの情報をもとに、ハマトビウオの生活史における海象や気象などの物理現象・餌料生物や捕食生物などの生物現象間の相互関係を検討し、資源変動要因を明らかにすることで適正な漁獲数量管理を行う上で重要な資源量推定の精度向上に反映させる。(橋本 浩)


図1 ハマトビウオ漁獲量の推移

図1 ハマトビウオ漁獲量の推移


図2 ハマトビウオ夏季(索餌期)の分布

図2 ハマトビウオ夏季(索餌期)の分布
(水温図は海上保安庁海洋速報より改変)


図3 ハマトビウオ成長

図3 ハマトビウオ成長


図4 ハマトビウオ仔魚から未成魚の成長

図4 ハマトビウオ仔魚から未成魚の成長


図5 ハマトビウオ卵から未成魚の分布

図5 ハマトビウオ卵から未成魚の分布


図6 ハマトビウオ推定回遊経路

図6 ハマトビウオ推定回遊経路