背景・ねらい

 八丈島のフクトコブシが平成5年に激減してから10数年経過した今も、資源は低迷しており、回復の兆がみられません。そこで、既存の統計資料と平成17年度までの調査研究資料をもとに原因を究明し、資源回復のために必要な対策を検討しました。

 

成果の内容・特徴

  1. フクトコブシを取り巻く生息環境を既存の資料から解析した結果、近年は海水温が平年より高く推移し、高水温に生物がさらされています。また、平成8年にテングサの水揚量が激減してから、テングサとフクトコブシの水揚量には強い相関みられ、餌料環境の悪化が懸念されます(図1)。
  2. 生息状況調査の結果から、殻長は昭和63年頃から小型化し、肥満度の減少も見られました。特に、平成14年、平成15年のフクトコブシは極端にやせ、再生産に関わる卵質の低下も懸念されました(図2、図3)。
  3. 平成16年の産卵期における生息状況調査では、親貝の個体数密度は2.1個体/m2から4.3個体/m2と低く、平均殻長は41.6mmから43.9mmと、生物学的最小形である50mm以上の個体はほとんど見られませんでした。
  4. 精子密度と受精率の関係を調べた結果、受精率は精子が一定密度以下になると、極端に低下しました。フクトコブシの雄1個体が放出する精子が球状に拡散するモデルを作成した結果、受精率5割程度を得るためには雌雄が2.5m程度の範囲に混在する必要があることがわかりました(図4)。
  5. フクトコブシの抱卵数を調べた結果、殻長と抱卵数および肥満度と抱卵数の間には有意な回帰関係がみられ、抱卵数は殻長と肥満度に大きく左右されることがわかりました(図5、図6)。
  6. 着底初期稚貝の生態を解明するためコレクターを用いて稚貝採集を行いました。採集したサンプルを検鏡した結果、フクトコブシに類似した着底稚貝が確認されましたが、形態からではフクトコブシと明確に分類することは出来ませんでした。
  7. 成熟異常の有無、外敵生物による捕食試験を実施したところ、フクトコブシ資源を変動させるような知見は得られませんでした。

 

成果の活用と反映

 フクトコブシ資源量は、水温・餌料藻類等の生息環境と親貝密度に依存して変動します。今後は、餌料環境を整える一方で、資源増大の機会を得るために禁漁区の設定等を提言していきます。初期生態の解明については、モノクローナル抗体等の新技術を取り入れながらモニタリングしていくことが重要であると思われます。(田中優平)

 

図1 テングサ水揚量とフクトコブシ水揚量の関係(H8からH17)

図1 テングサ水揚量とフクトコブシ水揚量の関係(H8からH17)

 

図2 殻長組成の推移(S61からH17)

図2 殻長組成の推移(S61からH17)
※nは個体数

 

図3 フクトコブシ肥満度の年変動(S58からH17※バーは標準偏差を示す)

図3 フクトコブシ肥満度の年変動(S58からH17※バーは標準偏差を示す)

 

図4 精子密度と受精率の関係

図4 精子密度と受精率の関係

 

図5 殻長と抱卵数の関係

図5 殻長と抱卵数の関係

 

図6 肥満度と抱卵数の関係

図6 肥満度と抱卵数の関係