背景・ねらい

 サメ類による漁業被害は、伊豆諸島海域のみならず日本全国で頻発しており、八丈島海域では漁獲物の約3割が被害にあうケースもあります。しかし、八丈島周辺海域でのサメ類について、その出現種や分布、季節変動など生物学的な知見が少なく、有効な被害対策を取れないのが現状です。そこで、漁業者や漁業調査指導船「たくなん」の調査により得られた情報を整理し、八丈島周辺海域におけるサメ類の出現種を明らかにすると共に、洋上での目視観察によるサメ類の種査定方法について検討しました。また、漁獲物について食利用を目的とした有効活用に取り組みました。


成果の内容・特徴

  1. 八丈島周辺海域における出現種と漁獲数: 八丈事業所における顎標本や「たくなん」による操業記録から、八丈島周辺海域でネズミザメ目3科5種、メジロザメ目2科8種の計13種が漁獲されました。漁獲尾数では、イタチザメが最も多く、次にヒラガシラの順となりました(表1)。しかし、今回の調査で、「ヒラガシラ」と呼ばれるサメ類は、クロトガリザメやガラパゴスザメなどメジロザメ科の魚種であることが多く、八丈島でヒラガシラとして記録された種はメジロザメ科の魚種が混同していた可能性が示唆されました。
  2. 外部形態による簡易版船上査定表の試作: 八丈島周辺海域におけるサメ類の出現種の査定結果から、種ごとの外部形態の特徴を基にして、今までの図鑑に頼らない船上(洋上)で種判別ができる査定表を試作しました(図1)。査定の基準として、頭部形態、尾部形態、皮膚の色や模様、鰭の配置など、背側の観察で種査定ができる形式としました。
  3. サメ肉の脱臭処理方法と調理例: サメ肉を切り身の状態で、氷水に約1時間さらすことで、サメ特有の臭気を抑えることができました(図2)。冷水さらし肉を活用することで、充分に食用として利用することが可能です。食用例として、揚げ物、煮魚などの加熱調理のほか、酢味噌和えなどの生食でも利用できました

成果の活用と反映

 サメ類による漁業被害を防ぐために、加害種の査定を明確にすることにより、漁業被害の記録の精度が増し、種ごとの分布出現パターンを把握することができます。これにより、サメ類による漁業被害の少ない海域や時期などに合わせて計画的に操業することが可能となります。また、サメ肉を利用した特産物加工により、廃棄物をより少なくした地産地消の取り組みを推進することができます。(堀井善弘)


表1


図1 八丈島周辺海域に出現するサメ類の簡易船上査定表

図1 八丈島周辺海域に出現するサメ類の簡易船上査定表


図2 ガラパゴスザメの冷水さらし肉とその加工例(酢味噌和え)

図2 ガラパゴスザメの冷水さらし肉とその加工例(酢味噌和え)