研究の背景とねらい

伊豆諸島海域はキンメダイの主要漁場になっており、地元の漁業者ばかりでなく、他県の漁業者も操業しています。このため、キンメダイ資源の持続的な活用を目的に、各都県の漁業者間の協議による自主的な資源管理が行われ、さらに平成17年度から水産庁の資源回復計画対象種にも指定され参加各都県で資源管理に取り組んでいます。しかし、伊豆諸島での仔稚魚期の分布生態や漁場加入機構については不明な点が多く、効果的な資源管理手法を考える上で大きな支障となっています。そこで、各種ネット調査を行い、キンメダイのライフサイクルを解明し資源管理に役立てます。

成果の内容と特徴

2006年から2007年に、毎月、大島から鳥島まで観測地点において(図1)、調査指導船「みやこ」(図2)でリングネット、ボンゴネット(水深約50m)を用いて仔稚魚の採集を行いました。 また、2007年7月、8月、10月に高知県沖合いの12観測地点(図3)において、リングネット、ボンゴネット(水深約50m・100m)を用いて仔稚魚の採集を行いました。

  1. 仔稚魚の水平分布:伊豆諸島では6月から9月に八丈島を中心とする南北の海域で、キンメダイ仔稚魚が採集されました。仔稚魚の体長組成を分析すると、小型個体が毎月出現すると共に、月が経つに連れて大型個体が出現し、伊豆諸島海域で産まれた卵は、これらの海域で孵化、発育している可能性が示唆されました(図4)。
  2. 仔稚魚の成長段階:2004年から2006年に採集された仔稚魚を用い、孵化仔魚から稚魚までの成長段階の分析を行いました。外部形質の相対成長や各鰭の形成その他の変化により、6つの成長段階を区分し、キンメダイの初期形態を把握することができました(図5)。
  3. 黒潮上流域調査:ボンゴネットとリングネットによる計56回の曳網から合計10個体の仔魚が採集されました。表層の曳網よりも中層調査から多くの仔魚が採集されており、高知県沖海域でも、キンメダイ仔魚の分布水深は、50mから100m付近に多いことが把握されました。同じ時期に実施した伊豆諸島での調査結果と比較すると、卵仔稚魚の採集数はとても少なく、黒潮上流からの卵仔稚魚の加入割合は、伊豆諸島で産出されるものに比べて少ないことが示唆されました(表1、表2)。

成果の活用と反映

今後は、伊豆諸島で産出されたキンメダイ卵・仔稚魚のその後の成長と分散、漁獲資源への加入機構の解明を進めていきます。そのために黒潮流域を軸とした調査を進め、より成長した稚魚の分布生態と、若魚(イトヒキキンメ)の漁場加入機構の解明を進めていきます。さらに、伊豆諸島がキンメダイの産卵、仔稚魚の成育場所あることを踏まえ、資源管理をより効果的に推進し、キンメダイ資源の持続的活用を図っていきます。

前田 洋志


図1 伊豆諸島における観測地点
図1 伊豆諸島における観測地点


図2 調査指導船「みやこ」(136t)
図2 調査指導船「みやこ」(136t)


図3 高知県沖海域における観測地点
図3 高知県沖海域における観測地点


図4 2006年ボンゴネット調査(水深約50m)におけるキンメダイ仔稚魚の海域別、月別体長組成の変化
図4 2006年ボンゴネット調査(水深約50m)におけるキンメダイ仔稚魚の海域別、月別体長組成の変化


図5 キンメダイ仔稚魚の発育段階
図5 キンメダイ仔稚魚の発育段階
A:卵黄期、B:未発達期、C:発達開始期、D:発達期、E:完成期、F:稚魚期


表1 2007年高知県沖海域におけるキンメダイ卵・仔稚魚の採集数(W.O.75m)


表2 2007年伊豆諸島海域におけるキンメダイ卵・仔稚魚の採集数(W.O.75m)