研究の背景とねらい

八丈島のテングサ水揚げ量は、1996年頃から低迷を続けています。2007年には、過去36年の作柄調査において最低を記録し、未だ回復の兆がみられません(図1)。そこで、テングサの生長・繁茂と海洋環境の関係を調査し、不漁要因の把握に取り組むとともに、テングサ藻場の衰退防止として今出来る対策の方向性を探りました。


図1 地先別テングサ枠取り量の推移
図1 地先別テングサ枠取り量の推移


成果の内容と特徴

  1. テングサ類の代表種であるマクサの生長期は初春から初夏で、この期間に低水温・高栄養な黒潮内側域の海況が続くと生長が良くなるが、逆に高水温・低栄養な黒潮流路ないし黒潮外側域の海況が続くと生長が悪くなり、生長期も短くなることがわかりました(図2)。
  2. 長期的な動向を見ると、近年は高水温で低栄養と考えられる不適な海況が続き、平均水温では過去になく高い状態が10年近く続いています(図3)。これがテングサ不漁の主な要因と考えられました。
  3. 漁場のNO3-N濃度とマクサの窒素安定同位体比(δ15N)を調べたところ、わずかに残るテングサ場は陸域からの栄養塩供給により支えられ、それは人為由来、あるいは天然由来のどちらの起源の栄養でもテングサの繁茂には効果があることが示唆されました(図4、図5)。
  4. 部分的に存在する栄養塩が豊富な地点(湧水による栄養塩供給が認められる地点)の海水を用いて、マクサを室内培養したところ、良好に生長することが確認されました(図6)。
  5. 八丈島沿岸の中では、比較的栄養条件の良い神湊漁港域に、マクサ藻体を移植したところ、良好に生長することが確認されました(図7)。
  6. 漁業者からの聞き取りにより、残存藻場では、新たにアオウミガメによるテングサの摂餌の影響が懸念されていることがわかりました。そこで、アオウミガメの胃内容物調査およびビデオ撮影による摂餌行動の観察を行ったところ、選択的にテングサを摂餌していることがわかりました(図8)。

成果の活用と反映

海況が好適になったとき速やかに回復できるように、現在残るテングサ場を保護する必要性があります。特に、湧水のような高栄養の水が流れ込む海域を有効活用すること、過度の食圧から防御することが望まれます。また、一部の高栄養な漁港域を、新たな藻場造成地として利用できる可能性がみえました。この漁港域を、テングサのために利用することが望まれます。

高瀬 智洋

 

図2 2005年から2006年のマクサ成長と海況変化
図2 2005年から2006年のマクサ成長と海況変化


図3 2月から5月の平均水温の5カ年移動平均
図3 2月から5月の平均水温の5カ年移動平均


図4 各漁場のNO3-N濃度とマクサのδ15N値及び各起源水の特徴
図4 各漁場のNO3-N濃度とマクサのδ15N値及び各起源水の特徴


図5 各漁場のマクサ繁茂状況
図5 各漁場のマクサ繁茂状況
図6 20mmに剪定したマクサ藻体の培養12日後の藻長
図6 20mmに剪定したマクサ藻体の
培養12日後の藻長

図7 神湊漁港域に移植したマクサ藻体の生長を確認(2007年6月)
図7 神湊漁港域に移植したマクサ藻体の
生長を確認(2007年6月)

図8 アオウミガメの胃内容物重量割合
図8 アオウミガメの胃内容物重量割合
(2007年5月に採捕された個体)