研究の背景とねらい

2003年9月に小笠原諸島母島列島沿岸で高水温によると思われる大規模な造礁サンゴの白化が起こり、多くのサンゴが死亡しました。サンゴ礁は有用魚類の餌場や住み場所となるだけでなく、観光資源としても利用され、小笠原の産業に大きな役割を果たしています。そこで被害を受けたサンゴ礁のその後の経過を明らかにし、合わせてサンゴ礁回復の基礎的技術を開発し、人為的な手法が必要か検討します。


成果の内容と特徴

  1. 小笠原諸島における造礁サンゴの白化は2003年9月に母島列島を中心に発生し、白化率は同列島の西側浅海域で高く40%から70%、白化したサンゴの死亡率は42%から70%でした。
  2. 母島御幸浜の水深3mと10mで経過調査を行いました。調査地点のサンゴ被度は白化時にはそれぞれ40%、42%でしたが、サンゴの死亡により17%、34%に減少しました。
  3. 白化4年後の2007年10月のサンゴ被度は水深3mで26%、10mでは42%と、3mでは白化前の65%、10mでは100%にまで回復し、このまま回復が進めば水深3m地点も2009年には白化前の被度にまで回復すると見込まれました。
  4. 世界各地から大規模白化、疾病、サンゴ食害生物の大発生等の撹乱が数多く報告されていますが、小笠原海域では2003年の母島での大規模白化、媒島の赤土流出を除き、大規模な撹乱は確認されませんでした。
  5. サンゴの産卵は5月下旬から9月下旬にみられ、母島では8月、9月の下弦の月後の小潮前後に集中していました。
  6. 天然環境での着生基盤へのサンゴ幼生の着生、天然産出卵の採取、水槽内での自然産卵、水槽内での人為的産卵誘発の4種類の方法で稚サンゴを生産することに成功しました。

成果の活用と反映

2003年の白化により減少した造礁サンゴは順調に回復していますので、人為的増殖等を行う必要はないと考えられます。造礁サンゴの撹乱は地球環境との関係で世界的に注目されていますので、小笠原においてもモニタリングを継続することが必要です。稚サンゴ生産技術は造礁サンゴの生態把握のための基礎資料として、また撹乱に対する備えとして活用されます。

妹尾 浩太郎


写真1 白化したサンゴ
写真1 白化したサンゴ
写真2 産卵後水面に集まるサンゴ卵(スリック)
写真2 産卵後水面に集まるサンゴ卵(スリック)

図1-(1) 水深、種類別サンゴ面積の推移(御幸浜):水深10m
図1-(1) 水深、種類別サンゴ面積の推移(御幸浜):水深10m

図1-(2) 水深、種類別サンゴ面積の推移(御幸浜):水深3m
図1-(2) 水深、種類別サンゴ面積の推移(御幸浜):水深3m


写真3 産卵誘発により採卵、着生
写真3 産卵誘発により採卵、着生
写真4 天然海域での自然着生
写真4 天然海域での自然着生