研究の背景とねらい

アントクメ(写真1)は伊豆諸島に分布するコンブ科の海藻で、貝類の餌やイセエビ、魚類等の幼稚仔の隠れ場として重要な役割を果たしています。しかし、伊豆大島では平成10年以降、南部の波浮港地区を除いて生育が確認できなくなり、サザエなど貝類の漁獲量にも影響を及ぼしています。大島事業所では、これまでアントクメの藻場造成に必要な胞子体、配偶体の生長、成熟時期等の生活史を明らかにしました。また、スポアバッグ法および配偶体を付着させた植毛板移植の2つの手法を用いて藻場造成実験を行ってきましたが、平成19年度はスポアバッグ法による藻場造成の事業化を行いました。

写真1 伊豆大島におけるアントクメ
写真1 伊豆大島におけるアントクメ
写真2スポアバッグの投入(平成16年9月
写真2スポアバッグの投入(平成16年9月)

成果の内容と特徴

  1. 平成13年から14年にかけて天然のアントクメの生長、成熟の観察、遊走子放出実験、および胞子体、配偶体の培養実験により伊豆大島におけるアントクメの生活史を明らかにしました(図1)。
  2. この結果をもとに、平成14年から、遊走子が放出される8月以降、スポアバッグ法による藻場造成に取り組みました(写真2)。平成19年までに17ヶ所に母藻投入を行い、そのうち16ヶ所で翌年、アントクメの生育が確認されました。1個のスポアバッグの効果範囲はスポアバッグ取り付け中心部から半径5m程度であることが明らかとなりました(図2)。
  3. 平成16年から、植毛板と呼ばれる海藻着生基質を用いてアントクメ配偶体の採苗を行い、一定期間培養した後に移植する技術の開発に取り組みました(写真3)。これまで2ヶ所に移植を行い、いずれもアントクメの生育が確認されました。
  4. 平成19年には、大島町、利島村がスポアバッグ法による藻場造成の事業化を行い、漁業者が中心となって、大島町で2ヶ所に各200個、利島村で300個のスポアバッグを投入しました(写真4)。

成果の活用と反映

今後は、事業化を行ったスポアバッグ法による藻場造成の効果の把握を大島町、利島村と共同で行うとともに、魚や貝類による幼芽の食害対策を講じることにより、確実性の高いアントクメ藻場造成手法の確立を目指していきます。

駒澤 一朗



図1 伊豆大島におけるアントクメの生活史
図1 伊豆大島におけるアントクメの生活史


図2碁石浜におけるスポアバッグの効果範囲:
図2碁石浜におけるスポアバッグの効果範囲:
●はスポアバッグの設置地点、数字は平成17年7月の株数


写真3 植毛板上で芽を出したアントクメ
写真3 植毛板上で芽を出したアントクメ
(平成17年4月)
写真4 漁業者によるスポアバッグの設置
写真4 漁業者によるスポアバッグの設置
(平成19年9月)