研究の背景とねらい

伊豆諸島の底魚一本釣り漁業では、鈎がかりした高級底魚を食害するなどサメによる漁業被害が発生します。このサメを漁業被害防除のために捕獲することがあります。しかし、伊豆諸島においてはこれらのサメの利用度が低く、これまではそのほとんどが投棄されていました。そこで、資源の有効利用と漁業経営の安定化を図るために、食品として利用する方法について検討を行いました。


成果の内容と特徴

  1. 伊豆諸島で捕獲されるイタチザメやガラパゴスザメといった大型のサメや、フトツノザメ、モミジザメといった深海性のサメ類については、ほとんど利用されることがなく、一部の種類がくさやなどに利用される程度です。そこで、伊豆諸島で捕獲されたサメ類のいくつかについて成分分析を行い、特性の把握を行いました。その結果、ネズミザメには他のサメに比べて脂質が多く含まれていましたが、その他には種類によって著しく異なる成分は認められませんでした。
  2. アンモニア臭の素となる尿素の除去を試み、サメ肉そのものの利用方法についても検討を行いました。また、他のサメに比べて皮の厚いヨシキリザメについては、皮の食利用方法に取り組みました。その他に、魚醤油を使った干物の製造を試みました。
  3. ヨシキリザメやアオザメは、高級はんぺんの素材として利用されています。また、サメのような白身の魚は一般にねり製品に適当とされることから、サメ肉を使ったすり身の試作を行いました。水晒を十分に行うことでアンモニア臭の発生を除去し、白く見た目の良いすり身を作ることが出来ました。
  4. サメ肉をつかった料理や、実際に試作した加工品について試食会を開催し、アンケート調査を実施しました。その結果、「美味しい」「また、食べたい」といった意見が多く聞かれ、アンモニア臭についてもほとんどの方から「気にならない」との回答を得ることが出来ました。

成果の活用と反映

サメ類の肉には、浸透圧調整のために多量の尿素が含まれています。漁獲後には、時間の経過とともに尿素がアンモニアへと変化するためにアンモニア臭を伴うことになります。しかし、丁寧に水さらしを行うことで十分にアンモニア臭の発生を軽減することが出来ました。そのような処理を行ったサメ肉を使って試食会を開催したところ、サメを食することに対する関心が高まりつつあります。大島では伊豆大島漁協女性部の働きかけにより、学校給食センターでネズミザメが利用されました。今後も、サメの食利用について普及を行うために「サメ加工ハンドブック」の作成に取り組んでいます。

滝口 香穂


表1 サメ類の成分分析結果


図1 サメ肉の冷水さらしとサメ肉のフライ
図1 サメ肉の冷水さらしとサメ肉のフライ
図2 サメ肉のすり身と茹でかまぼこ
図2 サメ肉のすり身と茹でかまぼこ

図3 アンケート調査結果(1) 「サメ」を食べることに抵抗があったか 図3 アンケート調査結果(2) また「サメ料理」を食べたいか
図3 アンケート調査結果