【背景・ねらい】

   キンメダイの移動回遊経路を把握するため、これまで長年にわたり、タグ標識による移動経路調査が行われてきました。しかし、この手法には、①再捕率が低い、②放流から再捕の途中経路が不明、③稚魚には標識できない、などの弱点があります。そこで、タグによる標識調査を補完するため、耳石の元素分析を行いました。耳石の元素組成には生活履歴(水温、水質、餌料等)が反映されるため、年輪別に元素組成を分析し、移動経路把握への活用を検討しました。

  

【成果の内容・特徴】

①  伊豆諸島海域など5 海域11 漁場で採集された、計29 尾のキンメダイを検体としました(図1)。中心(核)を通るように耳石を縦断し(図2)、切断面の核付近、並びに各年輪について、LA-ICPMS法* で、10 元素(Ca、Sr、Na、K、Si、Mg、Mn、Zn、Cu、Ba)の濃度を分析しました(図3)。

 

②  耳石の主成分であるCa の濃度は、範囲が38.7 ~ 39.5(平均39.3)%で、年齢とは無相関でした(図4)。そこで、以下の元素については、Ca との相対濃度として解析しました(図5)。
・Sr/Ca:核付近の濃度は0.4 ~ 0.6%で、多くの個体で加齢に伴い増加しました。キンメダイは成長に伴い深場に移動することから、Sr/Ca 濃度と生息水深の連動が示唆されました。
・Si/Ca:核付近の濃度は0 ~ 1.5%で、個体差が著しく大きいことが判明しました。加齢に伴い値が大きく変化する場合と、しない場合がありました。Si は海洋深層水の中などで高濃度になることが知られており、若齢時にSi/Ca 濃度が高い個体は湧昇域での生息履歴が、逆に加齢に関わらず低濃度で推移する個体は、黒潮流域等での生息履歴が示唆されます。
・K/Ca:核周辺で高く、加齢とともに減少する傾向がみられました。但し、若齢時には、伊豆諸島北部採集魚は値が高めで、八丈島や母島近海採集魚では逆に低めで推移する個体が多くみられました。これからK 濃度が生息域の特性を反映する可能性も考えられました。

 

【成果の活用と反映】

   検体数を増やし、元素組成と生息環境との関連をより詳細に調査分析する予定です。結果を、キンメダイの移動回遊経路の把握に活用していきます。

(米沢  純爾)

 

 キンメダイ耳石の年輪別元素分析