【背景・ねらい】

   伊豆諸島の重要な漁業資源であるトサカノリの増殖技術を確立するため、これまでに、トサカノリ胞子を高密度に含む胞子液を用いた効率的な採苗方法を開発しました。そこで、この採苗方法により育成した種苗を天然海域へ移植するための手法について検討しました。

  

【成果の内容・特徴】

① 種苗の育成方法と移植手法の検討
 人工種苗の育成は、培養過程で基質(胞子を付着させるための基盤)から剥離し独立した状態で育成する方法(フリーリビング種苗)と、胞子を基質に付着させたまま育成する方法(基質付着種苗)の2 通りの方法で行いました(図1)。フリーリビング種苗はロープに挟み込み、ロープごと垂直護岸へ取り付ける方法、基質付着種苗は基質ごと海底に固定する方法で行い、八丈島中之郷漁港内への移植を試みました。
② フリーリビング種苗の移植
 平成28 年4 月、藻長約30 ~ 40mm の種苗をクレモナロープ(φ4mm、長さ5m)に10 ㎝間隔で挟み込み(47 株/ 本)、水深約3m、4m および5m の位置にある垂直護岸の吊金具に2 本ずつ取り付けました。移植後毎月1 回、水中で各区10 株ずつの藻長を測定し、実験終了時にはロープをすべて回収し、生残株数、平均藻長、平均湿重量、および全株合計総湿重量を測定しました。各
区平均藻長111.4 ~ 164.3mm まで生長しましたが、種苗の生長、生残ともに4m 区が最も良い結果となりました(図2、図3 および表1)。
③ 基質付着種苗の移植
 平成28 年9 月、市販の移植基質に採苗を行った基質付着種苗をステンレスカゴに入れ、水深約5m の海底に固定しました。移植種苗の生長段階は、採苗後約2 か月間育成を行い2mm 程度に直立生長した段階(2 か月育成区)、約1 か月間育成を行い1mm 程度の球状の段階(1 か月育成区)、および採苗後7 日目の肉眼では胞子の付着が確認できない段階(1 週間育成区)の3 段階としまし
た。これらの基質付着種苗を同時に移植し、移植後毎月1 回、水中で各区10 株ずつの藻長を測定し、生長経過を比較しました。移植後90 日目までは、2 か月育成区の生長が他の区より良い生長を示しましたが、移植後156 日目には全区間で差はなくなり、20 ㎝前後まで生長しました(図4、図5)。 

【成果の活用と反映】

   今回移植した種苗は、生長後多くの藻体で成熟を確認することができました。このことから、移植種苗は漁獲対象として利用されるだけでなく、周囲への胞子供給源としての役割を果たすことも考えられました。今後は、トサカノリ資源の増大の一助となるよう、本研究で確立した技術の普及を図ります。

(早川 浩一)

 

 三宅島におけるテングサ(マクサ)群落の鉛直分布