【背景・ねらい】

 アユやヤマトシジミなどの復活がめざましい河川とは対照的に、内湾における底生性魚介類対象の漁業は著しく低迷しており、一般の遊漁者がレクレーションを楽しめる状況ではありません。このため、国及び都県市などの関係自治体、研究機関、漁業者、市民などの官民で構成される「東京湾再生推進会議」が再生のための協議を進めるなか、問題点を明らかにして情報発信する意義が高まっています。なお、浅場造成の参考となる事例を発信するため、お台場海浜公園の覆砂場で行った調査資料も再整理して報告します。

  

【成果の内容・特徴】

①  三枚洲と若洲水域の海底直上1 mでは、夏期を中心に溶存酸素濃度2 ~ 3 ㎎ /L 以下の貧酸素水塊が形成されました(図1、図2)。このことから、底生性魚介類が棲む海底面はさらに厳しくなることが考えられました。
②  泥分率(0.063mm 以下の粒子)と硫化水素ガスの発生に関わる全硫化物量(TS ㎎ / g乾泥)との間に強い関係がみられました(図3)。このことから、泥分率が高い深場は貧酸素水塊形成時に活発化する嫌気性細菌(硫酸塩還元細菌)による硫化水素の影響に晒されやすいと想定されました。
③  アサリなどの稚貝は、好適な水質・底質環境が維持されやすい浅場で着底量が多いことが確認できました(図4 上段)。しかし、河口攪乱による貧酸素化と低塩分水の滞留が想定された平成25 年9 月豪雨の後の翌月10 月に、稚貝は激減しました(図4 下段)。
④  一方、殻長20 ㎜以上の大型貝のうち、アサリやシオフキなどの有用種は、三枚洲東端の地点で相対的に多く、旧江戸川からの河川水が貝類の生残に何らかの良い影響を及ぼしていることが考えられました(図5)。
⑤  平成8 年に人工造成浅場が完成したお台場海浜公園では、アサリなどの有用種は、泥分率と全硫化物量がともに低く、酸化還元電位が正の値を強く示すなど、覆砂により底質環境が適正に維持された地点で多くみられ、 20 年の長期にわたり覆砂効果が及ぶことも確認できました(図6)。造成場所と浅場造成方法の参考になると考えられます。

【成果の活用と反映】

  今回の調査から、貧酸素水塊の形成に伴う底質環境の悪化や出水の影響が底生生物にダメージを及ぼしていることが明らかになりました。この結果は各種報告会の場で今後活用する予定です。

(小泉 正行)

 

 東京湾の河口浅場は生物にとって棲みやすいのだろうか?