【背景・ねらい】

   小笠原諸島では、水深400 ~ 600m においてメカジキを対象とした深海たて縄漁業が盛んです(図1)。しかし、その漁獲量は年変動が大きく、漁場が特定しづらい特徴があり、より効率的な漁獲が望まれています。本事業では、九州大学およびJAMSTEC の協力のもと、JAMSTEC 提供のJCOPE-Tのモデルデータを用いて内部潮汐場と漁場の関連性を検討し、メカジキ漁場予測システムの構築を目指しました。

  

【成果の内容・特徴】

① モデルデータによる内部潮汐の確認
・調査指導船「興洋」により定点で2 時間おきに水温観測を行い、同地点同時刻のモデルデータと比較したところ、観測データおよびモデルデータ共に、主温度躍層の他に水深 400m ~ 500m で温度変動があることが確認され、モデルデータが現場データを再現していることがわかりました(図2)。
・モデルデータにより水温変動の東西方向の鉛直断面をプロットしたところ、水深400 ~ 500m で大きな鉛直流による温度変動があり、その変動は斜め下方向に向かって分布していることから内部潮汐の発生が示唆されました(図3)。
② 内部潮汐と漁場形成
・モデルデータによる水平方向の温度偏差と聞き取りにより得られたメカジキの漁獲位置を比較したところ、内部潮汐が水深500m を通る水平位置の縁辺部とメカジキの漁獲位置はおおむね一致しました(図4)。
・内部潮汐により発生する潮流の収束発散位置と漁獲位置を比較したところ、収束が卓越する水平位置とメカジキの漁獲位置はおおむね一致することがわかりました(図5)。
・時間別の収束発散の鉛直プロファイルと魚探画像を比較したところ、収束が卓越すると魚探画像の反射強度が増加したことから、内部潮汐が餌料環境に影響を与えている可能性が考えられました。 

【成果の活用と反映】

   本事業の結果より、父島周辺で内部潮汐の発生を確認し、内部潮汐が水深500m を通る水平位置、
特に潮流の収束位置がメカジキ漁場形成の指標となることがわかりました。この結果を受け、モデル
データを「海の天気予報」として漁業者向けに一般公開し、海面高および水温等の海況情報に加え内
部潮汐場の形成予測も公開しました。
 しかし、漁場の形成には、内部潮汐と動物群集との関係性が想定され、餌生物環境も把握しなけれ
ばより詳細に漁場を予測することが困難であるため、漁場予測の精度向上に向け更なるデータの蓄積
を行っていきます。

(田中 優平)

 

 メカジキの効率的な漁獲を目指す