【背景・ねらい】

   河川漁業の重要種であるアユは、一方で環境指標種として重要な魚類です。当センターでは、昭和58 年から多摩川における遡上稚アユ調査を、また昭和48 年から内湾の稚魚調査を実施しています。今回、大量に採集されたシラスアユを単に「多かった!」と、トピックス的に捉えるだけでなく、やや離岸した多摩川河口でまとまって採集されたことがシラスアユの生残に及ぼす影響を考える契機とするため整理・検討しました。

  

【成果の内容・特徴】

①  平成30 年3 月23 日に水深3.6 mの内湾調査地点で採集されたシラスアユは1,807 個体で、曳網距離(33 m)と開口部(ビーム幅約3.5 m×網丈0.7 m)から、採集密度は22.4 個体/ ㎥と高いことがわかりました。体長範囲は17.7 ~ 35.3mm で、過去に解析した同3 月期の体長と一日一本形成される輪紋数との関係から、ふ化後約50 ~ 90 日経過した個体が同一水域に集まっていたものと考えられました(図1、図2)。
②  消化管内は空胃が目立ちますが、幾つかの個体から体長1mm ほどの小型のカイアシ類であるパラカラヌス科のParacalanus parvus がみられました(図1 内の写真は雌)。
③  図3 には、内湾調査で採集された5 地点のシラスアユの合計採集数(図3 左の片対数目盛)と多摩川の稚アユ遡上数(図3 右目盛)の推移を示しました。本年3 月期におけるシラスアユの採集量が春以降の遡上数に比べて突出していることがわかります。
④  東京都内湾では、過去3 カ年の調査からシラスアユは波打ち際などの浅場に集中しており、水深5 ~ 6 mの沖合部や直立護岸付近ではみられません。しかし、3 m前後の浅場が広がる多摩川河口では量的には少ないものの、分散分布していることがわかっています(図4)。これらのことを踏まえると、本年3 月期に河口域で採集されたシラスアユは波打ち際などの浅場並みに高密度で分布していたものと考えられます。
⑤  浅場に棲むことで外敵から身を守る手段を得たと考えられるシラスアユが、年々の稚アユ遡上数を支えています。これらのシラスアユが、外敵に狙われやすい比較的平坦な河口域に集中分布することを回避させるためには、羽田洲や周辺水域に切れ目なく続く浅場が広がることが好ましいと考えられました。

【成果の活用と反映】

   今回、シラスアユの発生時期や分布状況を検討した結果、浅場の重要性が再認識できました。この
結果は各種報告会の場で今後活用する予定です。

(小泉 正行)

 

 “アユのゆりかご東京湾”で春を待つシラスアユ