【背景・ねらい】

   大島事業所では、平成12年の噴火により大きな被害を受けた三宅島のテングサ(マクサ)漁場で潜水調査を継続しています。しかし、潜水での調査範囲は限られており、マクサの回復状況や不漁原因を調べるためには、マクサ群落(マクサがある程度まとまって生えているところ)の状況を広範囲に把握する必要があります。そこで、三宅島全体でマクサ群落の鉛直分布がどうなっているのか調べるために、平成29年度に島の東西南北方向での鉛直分布について、光条件によるシミュレーションを行いましたが、実際の海の中ではどうなのかを検証するため、今回は超音波ソナーを用いた調査を行いました。なお、本研究は東京海洋大学への委託研究により実施しました。

  

【成果の内容・特徴】

① スクーバ潜水によるマクサの鉛直分布調査
 図1の阿古地区で、図2のAラインに沿って潜水し、0.25㎡の枠取り調査と写真撮影による被度調査を行いました。その結果、水深が深くなるほどマクサの着生量が増え、被度は水深6.5mでマクサ優占となり、13m前後で極大となりました(表1、図3)
② 船を用いた超音波ソナーによるマクサ鉛直分布調査
 三宅島の東西南北4方位に位置する4地点(図1)で図2のように船を走らせて超音波調査を行いました。Aラインに最も近いbラインで調査した結果を①の結果と比較して、①でマクサが優占している水深6.5mの超音波データをマクサ群落と定義し、各ラインの結果を解析しました。これにより、それぞれの地点のマクサ群落の上限水深と下限水深が求まりましたが、東側のオオハシで
は境界は不明瞭でした(図4)。
③ シミュレーション結果の検証
 図1の2地点で海底と陸上の照度を連続観測しました。この二つを解析することにより三宅島の海の平均的な濁り具合を示す照度消散係数という値が求まり、ある水深における光の強さがどれくらいか算出することが出来ました。これを用いて②で得られたマクサ群落における光の強さ(光量子量)を求めた結果、島の西側では表2のようになりました。
 既存の知見では、マクサの上限水深を制限するマクサの飽和光量は1154mol m-2y-1、下限水深を制限する補償光量は183 mol m-2y-1ですが、今回得られた光の強さ(光量子量)は、上限水深では飽和光量よりも大きく、下限水深では補償光量よりも小さい結果となり、昨年度に行った光条件でのシミュレーションで得られた群落形成水深よりも広い範囲にマクサ群落が形成されていることがわかりました。

 

【成果の活用と反映】

   三宅島全域でのマクサの分布状況について有用な知見が得られました。このような広範囲での分布調査と、詳細な調査を組み合わせることによって、不漁原因の解明に近づいていくものと思われます。

(樋口 聡)

 

 三宅島におけるテングサ(マクサ)群落の鉛直分布