放流フクトコブシ種苗の活力について
背景・ねらい
東京都では、平成5年から大島から八丈島の各地先でフクトコブシ種苗の放流事業を実施しているが、回収率は、一部の地域を除いて当初の予定を下回る値になっている。
今回は、八丈島地区で実施してきた一連の回収率向上に向けた技術的課題の解決の中から放流種苗の活力の検証結果について報告する。
成果の内容・特徴
- 空輸直後の人工種苗を転石上に放流し昼夜観察した結果、9割近くが比較的速やかに転石下に入り込むなど、天然貝と同様な行動を示した。
- 抗菌剤による薬浴実験を行った結果、薬浴グループと薬浴しないグループとの間に死亡率で有意な差はみられなかった(表1、写真1)。
- 空輸直後の種苗を屋外水槽で飼育し観察した結果、30日間の死亡率は1.1%から9.2%であった。一方、天然漁場で食害を受けないようにした条件下での死亡率は、3ヶ月間で約11.4%以下であった(表2、3、写真2、3)。
- 今回の検証結果から、八丈島地区に配布・放流されている種苗の活力は高く、放流後の減耗への影響は少ないと思われる。
成果の活用と反映
今回の検証試験から、八丈地区でのフクトコブシ種苗放流事業における減耗要因は、種苗の質的な問題に起因するのではなく、放流後の漁場環境の影響が大きいと考えられた。今後、放流漁場環境との関係を検証し、放流効果の向上に繋げていく。
(文責:小泉正行)
表1 抗菌剤エルバージュによる薬浴試験種苗の死亡率(%)
表2 飼育水槽での死亡率(%) |
写真1 抗菌剤の濃度別薬浴試験 |
表3 漁場での生残試験結果
写真2 平成9年の試験区 |
写真3 平成10年の試験区 |