背景・ねらい

 多摩川上流域では毎年約60万尾のアユ種苗が放流され、6月から11月まで鮎釣りで賑わってきたが、最近ではアユが不漁となり釣り人の数も減少している。本研究ではアユ不漁原因究明の一環として、冷水病を主体とする魚病学的見地から検討を行った。


成果の内容・特徴

  1. 放流用のアユ種苗650尾を無作為に抽出し、保菌検査を実施した結果、149尾に軽微な冷水病外観症状が観察された(表1、写真1、2)。
  2. 蛍光抗体法による保菌検査では、鰓や外観症状を示す体表患部で高率に検出され(写真3)、冷水病菌の推定保菌率は27.2%、その他の細菌は16.2%であった。
  3. 河川で回収した死亡アユ75個体について魚病検査を実施した結果、53個体79%に冷水病外観症状が観察された。
  4. 各種苗業者の放流種苗の水槽飼育試験を実施した結果(図1)、死亡率は31.7%から94.3%で種苗により差がみられた。死亡魚は、主に体表を感染部位として冷水病に感染し、体内ではエロモナス症やシュードモナス症を併発していた。
  5. これらの結果、冷水病を主体とする魚病が放流アユ減耗の一要因となり、不漁原因に関わっている可能性が示唆された。

成果の活用と反映

 保菌検査の結果を関係機関に報告し、アユ冷水病対策に役立てるとともに、冷水病がストレス等によって発病する条件性疾病であることから、輸送、放流時の取り扱いを中心に輸送業者、漁業協同組合の指導を実施した。


表1 放流種苗の保菌検査結果

表1 放流種苗の保菌検査結果
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写真1 冷水病外観症状

写真1 冷水病外観症状
(アユ冷水病対策研究会提供)

写真2 冷水病外観症状

写真2 冷水病外観症状
(アユ冷水病対策研究会提供)


写真3 蛍光抗体法による

写真3 蛍光抗体法による
冷水病菌観察像


図1 飼育試験による放流種苗の死亡状況

図1 飼育試験による放流種苗の死亡状況
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