背景・ねらい

 フクトコブシは、水深3~10mの転石地帯に生息する小型のアワビの仲間で、伊豆諸島の重要な磯根資源である。特に、八丈島では「あぶき」と呼ばれ、漁業の対象としてだけでなく島民の食生活に馴染み深い食材になっているが、近年、漁獲量が激減している(図1)。本研究では、このような島の特産品であるフクトコブシを陸上養殖技術の開発により周年、安定的に確保し、漁業だけでなく島の食文化、観光産業の振興に役立てることを目指した。

 成果の内容・特徴

  1.  フクトコブシ陸上養殖(写真1)の技術確立には、成長のいい餌を周年にわたり、安定して確保することが必要であり、フクトコブシの餌となる海藻の種類別の成長を調べた結果(図2)アオサの仲間である不稔性アナアオサ(写真2)が八丈島の条件にあった最適餌料であることがわかった。
  2. 不稔性アナアオサの陸上水槽での培養試験の結果(写真3)、栄養価の高い藻体を培養するための適正施肥量は、硫安が2.64%、過リン酸石灰が0.4%であること、アオサを攪拌するために必要な空気通気量は培養水槽1トンあたり10リットルで、夜間の通気は不要であることがわかった。
  3. 陸上培養の生産計画を立てるために面積当たりのフクトコブシ養殖生産可能量及び必要な餌の量を検討した。面積20m2の10トン水槽での生産可能量は60kgで、商品サイズである50mmの貝に換算すると3,428個となる。また、殻長20mm、重さ1.0gのフクトコブシは不稔性アナアオサを餌とすると、14ヶ月で商品サイズである殻長50mmに成長するが、これらの条件下でフクトコブシ10万個を生産するために必要な不稔性アナアオサの重量は約18トンであった。
  4. 使得られた知見を基に、直接経費をもとにしたフクトコブシ陸上養殖の収支計算を行うと、14ヶ月の飼育で50mmサイズを10万個生産し、4000円/kgで販売した場合、170万5千円の収入が試算された(表1)。

成果の活用と反映

 フクトコブシの餌料となる不稔性アナアオサの陸上水槽での培養条件を明らかにすることができ、餌料の周年培養技術が確立した。これによって、安定的なフクトコブシ陸上養殖が可能となり、漁業だけでなく島の食文化、観光産業の振興などに役立てることができる。

(文責:東元 俊光)

フクトコブシ養殖 説明資料