八丈島におけるクサヤモロ棒受け網漁と魚群特性
~今後の広域的な生態研究に向けて~

背景・ねらい

 棒受け網漁は八丈島における主要漁業の1つですが、漁獲されるクサヤモロの来遊経路や成長、産卵等の生態はほとんどわかっていません。一方、本種は世界の温帯域~熱帯域にかけ広く分布することが知られており、それらと八丈島来遊群との関連を検討していく必要があります。そこで今回、これまで八丈事業所で調査した各種データを整理・解析するとともに、熱帯域のクサヤモロを入手し、魚体特性を比較検討しました。

成果の内容・特徴

①1994年以降についてみると、クサヤモロ漁獲量は1998年の610トンをピークにやや減少傾向にあり、近年は250トン前後で推移しています。一方、CPUE(1日1隻当りの漁獲量)は周期的な変動を示すものの、顕著な減少傾向はみられません(図1)。これらから、漁獲量の減少は着業隻数の減少によるものと考えられました。

②伊豆諸島南部海域におけるクサヤモロの魚体測定データから、月別に魚体組成を取りまとめました。その結果、伊豆諸島南部海域では7月に小型魚(小ムロ)の加入が始まり、それらが漁場内で成長し、生残魚が翌年漁期に、大型魚(大ムロ)として漁獲されるものと推測されました(図2)。

③上記と同検体について、KG値(生殖腺熟度指数)を次式で算出し、月変化を取りまとめました。

    KG=GW ×10000÷FLの3乗 但し、GW:生殖腺重量(g)、FL:尾叉長(cm)。
 その結果、「小ムロ」は周年、KG値が低く未成熟でした。一方、「大ムロ」の一部は6月に雌のKG値が最大5.3に達しましたが、完熟卵は出現しませんでした。これらから、成熟途上の「大ムロ」は6月頃に、また未成熟な「大ムロ」も11月までには八丈島周辺から、他海域に移動することが示唆されました(図3)。

④熱帯域(図4:ミクロネシア連邦近海)におけるクサヤモロの尾叉長は、雄が20~33cm台、雌が24~32cm台で、雌雄とも大部分が25cm以上でした。KG値は2月と10月を中心に、周年やや高めの値を示しました。成熟期に入りかけている卵巣卵も出現したことから、今回の調査海域は産卵場から遠くないこと、並びに、熱帯域ではクサヤモロの産卵期が長期にわたることが示唆されました。

成果の活用と反映

 伊豆諸島南部海域と熱帯域のクサヤモロについて、それぞれの魚体組成と成熟状況を把握することができました。今後、更に広域的な調査を行い、DNA解析を含めた検討を行うことにより、クサヤモロの資源生態をいっそう明らかにできるものと思われます。

図1 八丈島におけるクサヤモロの漁獲推移

図1 八丈島におけるクサヤモロの漁獲推移

 

図2 伊豆諸島南部海域におけるクサヤモロの月別魚体組成

図2 伊豆諸島南部海域におけるクサヤモロの月別魚体組成

 

図3伊豆諸島南部海域におけるクサヤモロのKG値月変化

図3 伊豆諸島南部海域におけるクサヤモロのKG値月変化

 

図4 熱帯域クサヤモロの採集海域

図4 熱帯域クサヤモロの採集海域

 

図5 熱帯域で採集されたクサヤモロのKG値月変化

図5 熱帯域で採集されたクサヤモロのKG値月変化