小笠原でイシダイの種苗生産に成功

背景とねらい

 イシダイは小笠原においては遊漁の対象種として重要な水産資源であり、本土の市場では300gから1kg位までの活魚が高価格で取引されています。しかし、本土海域では商品サイズになるには2~3年かかることや、病気の発生により、近年ではイシダイの養殖が低迷しています。
 小笠原海域では一年を通じて清浄な高水温海水が得られるため、短期間で高成長が期待でき、病気の発症もほとんどないことから、小笠原のイシダイ養殖は有望であると考えられます。そこで、養成した天然親魚から自然産卵により得られた受精卵を用いて、稚魚の大量生産技術(種苗生産技術)の確立と、稚魚から商品サイズまでの養殖試験を行い、イシダイの養殖対象種としての可能性を検討しました。

成果の内容・特徴

① 平成17年から小笠原諸島父島沿岸域で釣獲したイシダイ親魚8尾を当所で3年間養成したところ(写真1)、平成20年4月から7月までの間に69回にわたって産卵がみられ、良質の受精卵を大量に採卵できました(表1)。


② これらの受精卵を使用して、1・3水槽(写真2)で種苗生産を行ったところ、順調に発育し(写真3)、小笠原で初めて稚魚の大量生産に成功しました。生産尾数は36,525尾で、卵からの生残率は20.3%、水量1m3当たりの生産尾数は6,088尾であり、海産魚の種苗生産成績としては極めて良好な結果が得られました(表2)。

 
③ 生産した稚魚を用いて養殖試験(写真4)を行った結果、ふ化後297日現在、全長24.1cm、体重320.8gに成長し、1年以内で出荷サイズに達することがわかりました(写真5、図1)。


④ このサイズまでの増肉係数(総給餌量/体重増加量)は1.8でした。通常、この値は養殖経営上、2以下が望ましいと言われているので、今回使用した飼料は本種の養殖飼料として適していることがわかりました。


⑤ このサイズまでの飼料費は127円/尾、増肉単価(1尾当たりの飼料費/体重増加量)は399円/kgでした。当地のイシガキダイでの出荷価格(1,600~2,000円/kg)を本種に当てはめると、飼料費に占める割合は出荷価格の20~25%でした。養殖経営上、この値は50%程度が望ましいことから、本種は飼料費がとても安く抑えられることがわかりました。


⑥ 1年以内に出荷サイズに達することやコストパフォーマンスに優れているという今回の結果から、イシダイは小笠原の新しい養殖対象種としては最適であることが判明しました。今回確立された採卵技術と種苗生産技術は、直ちに地元漁協に提供して、すでに本種の養殖事業化が始まっています(写真6)。

成果の活用と反映

 短期間の蓄養で商品サイズに達するので、コストパフォーマンスに優れた養殖対象種として期待できます。また、小笠原海域や既にイシダイ資源が枯渇してしまった伊豆諸島海域に本種苗を放流することにより、資源の増大が期待できます。 (川辺 勝俊)

 

 写真1  採卵用親魚

 写真1 採卵用親魚

 

表1 採卵結果

表1 採卵結果

 

写真2 種苗生産水槽

写真2 種苗生産水槽

 

写真3 仔稚魚の形態変化

写真3 仔稚魚の形態変化

 

写真4 養殖試験生簀

写真4 養殖試験生簀

 

表2 種苗生産結果

表2 種苗生産結果

 

写真5 ふ化後297日目の養殖イシダイ

写真5 ふ化後297日目の養殖イシダイ

 

図1 養殖イシダイの成長

 

写真6 漁協によるイシダイ養殖生簀

写真6 漁協によるイシダイ養殖生簀