【背景・ねらい】

 東京都内湾における魚介類の生息状況と水質・底質環境を把握するため、島しょセンターでは定期的な調査を行っています。また、平成25年11月には国と9都県市で構成される「東京湾再生推進会議」の中に「東京湾官民連携フォーラム」が設立され、生物生息場の再生に関する取り組みと情報の共有化が望まれています。そこで、東京湾奥における浅場造成効果を検証・発信するための調査を行いました。

 

【成果の内容・特徴】

① 覆砂の影響と二枚貝の分布平成261016日にお台場海浜公園の人工造成干潟から40mほど沖の軟泥域にかけて調査を行いました(図1)。調査地点は大潮の時に最も潮が引く基準水面(以下、AP0m)からお岸側に2地点、沖側に4地点設け、潜水により各地点で底泥の採取と50㎝方形枠内の二枚貝を目合1㎜の篩で漉し取って採集しました。その結果、潮干狩りの対象となるアサリなどの二枚貝の採集量は、覆砂の影響が及ぶ砂分(ここでは63μm以上の粒子)90%以上で大潮時に干上がることのないAP0m地点~12m沖地点間で多く、覆砂の影響が小さい軟泥地点では全くみられませんでした(図2)

② 底質の性状と二枚貝の分布:底質の良し悪しをみる指標として、酸化還元電位(※2)(ORP:Oxidation-reduction Potential )、全硫化物(※3)(TS:Total Sulfide)および泥分率(63μ未満の粒子)を分析しました(図3)。その結果、二枚貝がみられない軟泥地点は泥分率と全硫化物が極端に高く、泥中の酸化状態をあらわす酸化還元電位は負の値を強く示すなど環境が劣悪であることがわかりました(図3、4)。これに対し、アサリやシオフキなどが多いAP0m地点~12m沖地点間は覆砂の影響で底質環境が良好に維持されていることがわかりました。なお、両者の中間域にあたる24m沖地点は硫化物耐性の強い大型のホンビノスガイに限られ、12m地点より岸側の個体との大きさに開きがみられました(図5)。これは、大きさによる硫化物耐性、又は幼生の着底機構の違いを反映したものと考えられます。

【成果の活用と反映】

 東京湾奥であっても、覆砂をすれば生息場の改善効果が明瞭にあらわれることを明らかにしました。これらの結果は、当所のホームページを通じて既に情報発信をしていますが、今後は各種報告会の場で紹介する予定です。

 (小泉正行)

 


※1 底質改善をはかるために海底面を砂などで覆うことを覆砂という。

※2 酸化還元電位は物質の酸化力または還元力の強さを示す尺度で、単位は㎷。正の値が大きいほど底泥水は酸素の多い好気的な環境であるといえる。

※3 全硫化物は、海底堆積物の間隙水中の硫化水素と硫化水素が鉄などの金属と結合した硫化物を合わせた値で、近年揮発性硫化物とも呼称される。生成量が低いほど底質が良い環境といえる。

 

生き物は種に適した場を選ぶ!