【背景・ねらい】

 国際獣疫事務局(OIE)リスト疾病の1つであるキセノハリオチス感染症(※1)が、平成23年に国内で初めて確認されて以降、東京都でもフクトコブシで確認され、すでに防疫対策指針(※2)を策定し発生予防およびまん延防止に努めているところです。一方で、①同一海域・施設内の他種のアワビ類に感染が認められない(表1)、②生産施設内においても大量死亡等の被害報告がない、③既報のWS-RLOとは遺伝子の塩基配列に変異が認められるなど、これまでの報告に該当しない事例も認められています。フクトコブシから検出されたWS-RLOについては、特に知見が乏しいこともあり、まん延防止等を図りながらも、疾病リスクに応じた適正な防疫を行うべく、東京都では(独)水産総合研究センターとともに、上記視点から病害性を評価する試験を行っています。

 

【成果の内容・特徴】

① 感染したフクトコブシとの同居感染試験を行いました(図1)。クロアワビおよびメガイアワビへの感染は認められませんでした(表2a,b)。

② 感染したフクトコブシの長期飼育試験を行いました。死亡頻度は一定、2年間の累積死亡率は50%と53%(年間死亡率にすると約30%)と低く、また、異なる感染率のものを供試しましたが死亡率に差は認められませんでした(図2)。

③ フクトコブシから検出されたWS-RLOについて、解析に供した全ての検体で同一箇所に塩基変異が確認されました。このWS-RLOが上記のアワビに感染しないという結果を踏まえると、既報のWS-RLOとは区別して取扱う必要があると考えられました。そこで、リアルタイムPCRによる簡易で迅速な判別法を開発しました(図3)。

 

【成果の活用と反映】

 得られた成果について対外発表を中心に行ってきました(表3)。今般、キセノハリオチスが我が国のアワビ類に対しては強い病原性を持たないことを示唆する研究成果が、(独)水産総合センター等からも報告されています。得られた知見や報告を基に、適正な防疫対策を図りつつ、栽培漁業の推進を行っていきます。

 (高瀬智洋)


 ※1 病原体はCandidatus Xenohaliotis californiensis(WS-RLOとも呼ばれる)、感受性種はアワビ類、症状は摂餌障害・衰弱・足筋の委縮など、発症水温は概ね18℃以上、米国西海岸で大量死の報告、アワビ類以外の魚介類やヒトへの感染は報告されていない。

※2 国のガイドラインを基に平成23年度に東京都キセノハリオチス症防疫対策指針を策定。天然海域における浸潤モニタリング、種苗放流前の保菌検査、平成23年度途中から26年度までフクトコブシ種苗の配付停止措置など。

 

 フクトコブシから検出されたキセノハリオチス感染症原因菌の病害性