【背景・ねらい】

  東京都では、昭和58年以降、多摩川下流域におけるアユの遡上数の推定を行っています。推定遡上数は近年、飛躍的に増加し、平成23年以降高水準で推移しています。多くのアユが多摩川に戻ってきましたが、そのうちどの程度のアユが、中流域および上流域に到達しているかは明らかにされていません。そこで今年度は、多摩川中流域で定置網による採集を試み、中流域までのアユの遡上数を推定しました。

 

【成果の内容・特徴】

①  下流域遡上量調査

平成26年3月17日~5月31日に、多摩川ガス橋上流に定置網を設置し(河口より11km、図1)、入網したアユを計数しました。アユの遡上数の推定は、平成21年に実施した標識放流による入網率調査で算出した入網率(5.4%)を用いて、全遡上尾数を推定しました。平成26年の推定遡上数は541万尾(図2)となり、前年を下回るも、過去30年の平年値を上回り、依然として高水準と考えられました。

②  標識放流による遡上調査

平成26年3月17日~5月31日に定置網で採捕したアユの脂鰭を切除する方法で計63,084尾の標識放流を行い、遊漁者および各漁協から計69尾の再捕報告がありました。区間別(図1)では多摩川最上流区間(10区、図1)、および支流の秋川区間(11区)で最も多く採集され、多摩川最上流部での再捕は、御岳駅周辺(図1)で、過去23年間の調査で最も上流での再捕報告となりました。平成26年は上流域や支流秋川での再捕が多く、活発な遡上があったものと推測され、その要因として、6月上旬の大雨による河川の増水が、遡上促進に影響したものと考えられました。

③  中流域遡上量調査

平成26年5月15日~7月31日に日野用水堰(河口より約45km、図1、4)左岸、右岸の魚道および簡易魚道上流に定置網を設置し、定置網設置時間とアユの入網数より旬別のCPUE(1時間当たりの入網数)を算出し、遡上数を推定しました。なお、右岸側については左岸側遡上数との入網比率により遡上数を推定しました。日野用水堰における左岸魚道上流の定置網は、33日、532時間の設置でアユ計5,129尾、簡易魚道では、13日、208時間の設置でアユ計4,459尾、右岸魚道では5日、23時間の設置で計197尾の入網がありました(図3)。左岸:右岸の入網比は1:0.36 でした。これらの結果から、旬別に遡上数の推定を行ったところ、日野用水堰における遡上の盛期は、5 月下旬と増水後に水位が安定し昇温した6 月下旬から7 月中旬と考えられました(図5)。

 

【成果の活用と反映】

   中流域を通過するアユの数を把握することで、放流事業等の基礎資料として役立てていきます。今後は中流域における遡上数の変動を把握するとともに、遡上阻害要因を検討し、関係機関と連携して対応することで、上流へのスムーズな遡上を推進し、内水面漁業の振興を図ります。      

 (橋本 浩)

 

江戸前アユの遡上数は近年増加!中流域まではどのくらい来ているの?